詩
うるわしき 桜貝ひとつ 去りゆける 君に捧げむ
この貝は 去年の浜辺に われひとり 拾いし貝よ
ほのぼのと うす紅染むるは わが燃ゆる さみし血潮よ
はろばろと かようかおりは 君恋うる 胸のさざなみ
ああなれど わが思いは儚く うつし世の 渚に果てぬ
詩の意味と考察
美しいさくら貝を逝ってしまった君に贈ろう
去年一人で浜辺で拾った貝を
ほのぼのと燃えるようなきれいな桜色の貝は、私の燃える血潮の色。
赤いけれど少しさみしい。
はるか遠く、水平線からかよってくる潮の匂いは、途切れることがないように、君に恋している胸のさざ波もまた、いつまでも終わることはない。
でも、その思いも、この現代にあっては はかなく渚に消えていく。
この悲しい歌は、作曲家 八洲秀章が初恋の女性を亡くしたことに始まります。
八洲の恋人が亡くなり、彼女を想いながら鎌倉の浜辺を歩いていた時、きれいなさくら貝を見つけました。
色はきれいだけど、貝殻は片方しかない…、まるで、彼女を失った自分のようだ、と思ったのです。
それで歌を書きました。
「わが恋の如く悲しやさくら貝 かたひらのみのさみしくありて」
その歌を見せて、詩にして欲しいと頼んだのが、友人で作詞家の土屋花情でした。
土屋自身にも悲しい恋の思い出があり、自分の思いも重ねて詩を書いたといいます。
仕上がった詩に曲をつけたのは、もちろん八洲本人です。
歌は、<詩人が書いた詩に、作曲家がメロディーをつける> 、つまり詩人の心が歌われることが多いのですけど、この歌は作曲家の心が歌われています。
ほんとなら作曲家自身で詩を書いて、<作詞作曲> になるとよかったのですのに、作詞家の友人に、自分の心を「詩」にしてほしいと頼みました。
切なくてしっとりした、とてもいい歌曲に仕上がっていると思います。
ペンネーム
一緒になろうと考えていた彼女は、18歳という若さで亡くなってしまったのです。
悲しみに暮れた八洲は、自身のペンネームに彼女の名前を入れました。
彼の本名は鈴木義光。
彼女の名前<八重子>から<八>を、彼女の戒名から<秀>をとって、八洲秀章とペンネームを作ったのです。
別れた人のことを忘れない為に、人はいろんなことをします……骨の一片を持ったり、食べたりする人もいるとか、骨からダイヤにすることも出来るとか、いろんな話を耳にしますが、ペンネームというのは一番すばらしいかもしれません。
だって、仕事をする上での名前なのですから、いつも使うわけで、一心同体になった感じといいますか、いつもその人に守られているというか、ほんとにいいアイデアです。
とにかくはそれほどの想い人でした。
歌の誕生
昭和24年7月、NHKの<ラジオ歌謡>という番組で発表されました。
貝殻って
貝殻って海岸に行ったらいつでも見つけられるものかと思ってたら、よくとれる場所とか時期ってのがあるのだそうです
さくら貝は、鎌倉の由比ヶ浜が有名とか、夏より冬の西風が吹いた翌日がよく取れるとか
知らなかった私は目からウロコ
皆さんはご存じでしたか
やっぱり歌曲ってすてき
の。