お菓子の好きな巴里娘(パリむすめ)

ふたりそろえば いそいそと

角の菓子屋へボンジュール

 

(よ)る間もおそしエクレール

腰もかけずにむしゃむしゃと

食べて口ふく巴里娘

 

残るなかばは手にもって

行くは並木か公園か

空は五月のみずあさぎ

 

人が見ようと笑おうと

小唄まじりでかじり行く

ラマルチーヌの銅像の

肩で燕の宙がえり

 

 

 

  詩の意味と考察

お菓子の好きなパリのお嬢さん、いそいそと角の菓子屋へ行って、ボンジュール(フランス語でこんにちわ、)と挨拶したらすぐに、「選る間もおそし」、選ぶなんてこともしないですぐ、「エクレール下さい」。

そしてそれを座りもせずに立ったままでムシャムシャ。

ん…美味しい、って食べて、手でさっと口を拭いて、残りは持ったまま外に出て、今度はシャンゼリゼ通りを歩きながら、食べながら、おしゃべりしながら、颯爽と大股で歩いて公園まで。

空は春の水浅黄色。

きれいに晴れ上がった空の下を二人の少女は金髪をなびかせて歩いて行くのです。

人が見てようと、笑おうとおかまいなしに、小唄まじりで楽しそうです。

公園に来たら、ラマルチーヌの銅像。

その大きな銅像の肩のあたりにつばめが飛んできて宙返り。

ただツバメが飛んできたというのじゃなく、宙返りという言葉が活きています。

5月の風がさわやかに吹いている風景、金髪が風になびく雰囲気も感じられて、爽やかな一片の絵のようです。

 

 

みずあさぎ浅黄は水色の少し緑がかった色です。つまり春の空は真っ青ではありませんから、すこうし緑いろも感じさせる淡い水色ってことです。

 

エクレールエクレアという、シュークリームの丸い形ではなくて、細長くて上にチョコが塗ってあるもののこと。

エクレールとは、フランス語で、<稲光り>とか<電光>を意味するもので、皮の上のチョコートの輝きだと言う説と、電光石火のようにサササッと食べろと言う説とがあります。

シュークリームもエクレアも日本では手でもって食べますが、フランスではシュークリームはお上品にお皿の上においてナイフォークで食べていたようです。

一口目はナイフで端っこをちょっと切って、中のクリームをつけて食べはじめるのだとか、上品なお菓子だったのですね・・・ちょっと信じられないですけど(^^;) 

それを細長いエクレアができて、電光石火のように手で食べていいよと、なったようです。

 

ラマルチーヌ正式には、アルフォンス・ド・ラマルティーヌという名前で、詩人で政治家です。ロマン派の代表的詩人で、ヴィクトル・ユゴーなどと共に、ロマン派の四大詩人の一人に数えられてて、近代抒情詩の祖と称賛されます。

夫人を亡くした絶望から、「暝想の詩集」を書き、文筆生活に入り、ロマン主義詩の時代をもたらしました。

以後、政治家への関心を強め、国会議員になり、その後、外務大臣になるも失脚し、不遇な晩年を送ったようです。

 

 

 

  詩の誕生

大正15年に詩人西條八十がパリを訪れた時に書いたもので、同年1月の女性向け文芸雑誌『令女界』で発表。

 

この詩、西條八十はとても気に入っていたようで、普通、詩は、詩集に一度収められますと、たいていはそれで終わりで、あの詩はあの詩集に入っている詩ね…と表現したりしますが、八十はよほど気に入ったのでしょう、この詩を4つもの詩集に入れています。

最初が大正15年、女性向け文芸雑誌「令女界」で発表、詩集『巴里小曲集』の中に収め、更に昭和3年の『純情詩集』、そして更に昭和16年の『抒情詩選』にも収録されています。

ほんとに珍しいことですが、かなりお気に入りだったのが伺えます。

 

 

 

  詩の背景

大正15年に詩人西條八十がパリを訪れた時に書かれたものですが、大正時代と言えば、日本の女性はしとやかで、外でお菓子を買って、歩きながら食べるなんて、とてもとてもはしたないと思われていた時代です。

ところが、この詩の中の娘たちは、どこを読んでもお行儀の悪いこと。

でも、フランスの娘たちの生き生きとした活発な様子に西條八十は見入ってしまったのです。

まるで素敵な絵を見るようだと。

それで詩にしました。

水色の空の下で自由闊達に振る舞うパリ娘たちの姿がみごとに明るくいきいきと表現されています。

 

 

 

  曲の誕生

詩が発表されるとすぐに、橋本国彦と弘田龍太郎が作曲したようですが、弘田龍太郎の曲は私は未だ調べがついていません。どんな曲かご存知の方ありましたら教えていただきたいです。

橋本は東京音楽学校をバイオリン科で卒業、その卒業の次の年、この曲を作曲。

当時としては珍しいフランス歌曲風のもので、昭和4年奥田良三によってレコーディングされています。

 

 

 

ブルー音符ブルー音符ブルー音符 5月のパリブルー音符ブルー音符ブルー音符

ヨーロッパの長く寒い冬が終わりを告げると、5月、一斉に花が咲き乱れ、パリは本当に美しい、そうです。

4月は太陽の戻ってくる季節、5月はいっせいに花の開く月、なのだとか。

私は春にフランスに行ったことがないのでわかりませんが、私の先生がフランスの方で、「ほんとに冬は長くて寒くて、それをずっと耐えて、春を待っているの。ミモザが咲きだしたら、後は花が一斉に開きだして見事な春になるのよ」、とおっしゃっていました。

春が来ると、パリには公園や橋のたもとにアイスクリーム屋が店を出し、それを買って、パリジェンヌたちが食べながら歩いている姿がパリの街に溶け込んで一枚の絵になってしまう、と言うのだけど、やっぱりフランスだから絵になる気が・・・。

日本だとちょっとお行儀わるくて絵にはならないと思いますけど(^^;)

 

 

やっぱり歌曲ってすてきビックリマーク

の。