コロナ感染症の勢いも漸く収束の方向に向かい、緊急事態宣言も解除を迎えた。とは言え、決してウイルスが消滅したわけではなく、第2波、第3波が訪れることも間違いない。「新しい生活様式」という不自由を甘受しながらの生活のゴールは、今のところ全く見通せず、社会が崩壊しないことを祈るばかりである。

 緊急事態宣言の発令前から休校となっていた学校も宣言の解除を受け、3月〜5月末という異例な全国一斉長期休校の末に、6月からやっと授業が再開されることになった。大阪や東京では夏休みを2週間程度、冬休みを1週間程度に短縮し、更に土曜日にも授業を行うことで3月末までに履修すべき内容をなんとか詰め込むらしい。どの子たち、先生方にとっても受難の一年ではあるが、受験生を持つ親としては、受験がこんな年に巡って来た我が子の不運が些か不憫ではある。

 

 教育現場が停滞せざるを得ない中、大阪の吉村知事をはじめ、識者の間で、俄に9月入学制の支持が拡がり、腰の重い文科省でも真面目に俎上に上げられた。しかし、結局は、どうやら予想通り、ボツとなったようだ。まあ、それはそうだろう。文科省の役人が、「急いでしなくても良い」「国を挙げての大改革」を今、この時期にすべきであるという結論に導くとは到底思えない。寧ろ、俎上に上げただけでも驚いていいことだろう。理路整然と積極的に「反対」をする正当な根拠も山ほどあるであろうし、反対を支持する教育界の権威ある識者も多かろう。

 確かに教育の制度改革は正に「国家百年の計」であり、緊急事態の最中に拙速に議論を進めるべきではないのは当然ではある。国民的議論とその醸成によってなされるべきテーマである。しかし、さればこそ、これを機にもっと真剣に議論を深めるべきではないだろうか。

 

 抑も、私は以前から9月入学を支持していた。

何も、国を挙げて全ての教育を9月開始にすることなどないのだ。

小中高等学校に関しては、今まで通り、桜咲く4月に入学のままで、大学に関してだけは、9月入学にすればいいことなのだ。

 であれば、移行期の生徒をどう吸収するとか、教員をどう増やすとか諸々の大掛かりな問題も生じることなく実施可能であろう。

 大学を9月入学にすることを支持する何よりの理由は、決して、グローバルにそうだから。という訳ではなく、全国規模の「共通テスト(センター試験)」が真冬に行われるからである。もちろん、その後の私立大学、国公立大学の二次試験とかなりの長期間に及び、受験生は、受験勉強で不規則になりがちな生活の中で、毎年、毎年、インフルエンザの流行に対するケアもしなければならない。一生を決めるかも知れない試験を敢えて、この時期にせざるを得ないのは一重に4月入学であるからに他ならない。また、真冬のお蔭で、東北地方や北海道の生徒達は大雪による交通機関への影響にも対応しなければならず、場合によっては前泊も必要であったり、地域間での不公平も避け難い。更に、部活についても、競技による不公平感が甚だしい。三年生の最後の大会が冬に行われる冬季スポーツ、サッカー、ラグビーの選手達は、センター試験の直前にまで大会が行われる。数年前、進学校として有名な浦和高校のラグビー部が花園に出場した際にも東大進学を目指す選手達が宿舎で数日後に控えるセンター試験の勉強を一生懸命にしている姿が報じられた。全国大会に出た数日後に受験本番というのは、5月や6月の地区予選で高校スポーツを引退した生徒とは、勉学に割ける時間にも相当な差を埋めることもできずに受験を迎えることになり、いくら彼等がハンパない頑張り屋だとしても、少なからず辛い日程であったろう。部活なんて、それも承知の上で好きでやっているとは言えばそれまでだが、こんな差も4月入学だから生まれるのだ。

 更に言えば、公立高校では3月の卒業までに終了する日程で履修するように組まれている教科は1月や2月の受験時期には修了していないことも珍しくはない。公立高校出身の私も遠い昔、実際そんな経験をした覚えがある。これも、進度の早い中高一貫校との間では明らかな不公平が生じていると言えよう。

 

 高校は3月末に卒業。大学入試の共通試験は全員が卒業を済ませた6月初旬。6月中旬から7月初旬にかけて私立大学や国公立大学の二次試験、夏休みを経て9月入学。 

卒業式は7月初旬として、書面上の大学の卒業は7月末か8月末の何れとするべきかは判らないが、こうすれば、上に挙げた全ての問題がそんなにも大きな社会問題とならずに簡単に解決するように思うのだが、如何だろう。

 小学校、中学校、高等学校にも其々、入試はあり、大学だけ9月にしても、彼等の入試は真冬では?となるが、小・中・高等学校では、全国一斉試験はない上、大学受験のように宿泊を伴い遠方の学校を受験することも滅多にないであろう。受験する学校の数も大学受験と比べれば少なかろうし、自ずと期間も限られていよう。

 大学進学を望むものは、(大学検定など除いて)全て、一旦高校を卒業(現在は現役生は「卒業見込み」)し、高校で履修すべき科目は不公平なく全て履修を終え、高校生活の最後まで悔いなく部活もし、大会にも参加し、その上で4月5月の2ヶ月間は受験勉強に打ち込み、既卒生として全員フラットな立場で試験に臨む。

 高校を卒業して、就職を希望する人はもちろん今まで通り、4月入社。

大学卒業組は9月入社(若しくは8月入社)と2通りに別れはするが、一括採用そのものが議論される昨今、その程度の問題の解決は然程の混乱も生ないだろう。

 

 コロナのお蔭で9月入学が、突然のように議論の対象となったが、どうも小学校から全ての学校教育に話が膨らみ、結局は実現される様子はまるでなくなった。

 9月入学に移行する問題点として挙げられた諸問題は、決して簡単に解決することなど無かろう。つまりは、実現することも、いや、再び、議論の遡上に上がることさえなくなるであろう。でも、インフルエンザの流行に加えて、これからはコロナ感染のリスクも加わった。大学に関しては、正しくグローバルな視点も益々欠かせない。

 「今でなくてもいい」ことは、このままでいいのか。

我が家の受験生の意見もゆっくり聞いてみよう。