「HANNO...WHAT’S COOL 」 第9回(後半)
「CoderDojo Hanno」元ドージョー主 川鍋友宏氏
(前半よりつづき)
CoderDojo Hannoについて
ではDojoのお話を
CoderDojoというのは、子供達にプログラミングを含めたITを使って、創意工夫をして、子供達同士で学び合ってもらう場所です。
Coderは、コード(プログラム)を書く人。プログラマーという意味。
Dojoは日本語の「道場」です。
2011年にアイルランドの人が始めたんです。それが世界に広がりつつある。
Dojoに参加する子供たちをNinjaと言いいます。日本人にしてみると何でニンジャ?と思いますが、あちらの人にはオリエンタルな響きが格好いいんでしょうね。
僕がDojoの存在を知ったのが2013年で、飯能にCoderDojo Hannoを開設したのが2015年です。
Dojo開設のきっかけは
2013年に、HANNOアフタースクール代表の大森真理子さんから、子供たちにプログラミングを教えてみないかと依頼が来たんです。それでアフタースクールの休日のクラスで2年間、スクラッチという子供向けプログラミングツールを教えていました。
スクラッチのカンファレンスが毎年1回、東京であるんですよ。スクラッチに関わる大人や子供が集まるお祭りのようなイベントです。そこにうちの子を連れて遊びにいったんですね。
スクラッチを使ってプログラミングするとロボットが動く、というような知育玩具も当時出初めて、いわゆるプログラミング教育みたいなのがいよいよ日本でも金になるぞ、みたいな空気を業者の人たちも嗅ぎつけてきた頃で(笑)。市場として立ち上がるタイミングだったんですけど、そこでさいたま市で活動しているCoderDojo Saitamaの人たちと知り合って、ちょっと一度見学させてください、という話に。
CoderDojoのフィロソフィーとか、アイルランドの主催団体のHPとかを見たりして、参加者からお金を取らない、というところと、基本的には学び合いで子供たちが自発的にいろいろなものを学び取っていく場所だっていうところがすごくいいなぁと思ったんですよ。
それに、HANNOアフタースクールの子の中でも、その次がやりたいっていう子も出てくるんですね。家に帰ってやっても、自分だけのアイディアだと先に進めない。もう一押しする必要があるな、と。
続けてやりたい子の場所を作りたい。そんな子供たちが集まれる場所だけ大人が用意して、子供たちが自発的に活動する。
大人はなるべく干渉しないで、何か困ってそうならアドバイスする、みたいな。そんなことができたら最高だなって思って、Dojoを始めたわけなんですよ。
Dojoの風景
スクラッチというのは元々アイルランドで生まれたプログラム
スクラッチはアメリカのマサチューセッツ工科大学で生まれたソフトです。とても良く出来たソフトなので、世界中のDojoや教育機関で使われています。
Dojoは運営ルールが明文化されていて、それを守ったらあなたもCoderDojoを開いていいですよっていう規約があるんです。
地域で1箇所だけという制約はないので、もし吾野でやりたいっていう人が出てきたら、僕らがMisugidaiに名前を変えて、そこがCoderDojo Aganoを名乗るとか。
川鍋さんの本業について
川鍋さんの本業について少し教えていただいてよろしいですか
元々はプログラマーで、科学技術計算をするプログラムを作る会社にいたんですね。薬がどういうふうに効くのかをシュミレーションするとか、車が走っている時の空気抵抗がどのくらいになるのか、というような。
そういうプログラムを請負で作る会社にいたんですけど、その後大学に移りソフトウェアを研究開発する立場になりました。空気や水など流体が工業製品にどう関係してくるかというのを高精度で計算するためのプログラムの開発。
コンピューターで計算するといっても基本的には方程式を解くわけで、厳密に解いているとものすごく時間がかかるので、どこかはしょるわけです。複雑な空気の流れを全部計算していると何日かかっても終わらないので。
だからある程度単純化させて計算して、工業製品を作る人たちが我慢できるくらいの時間で計算しなくてはいけない。でも計算をはしょると誤差がでるんですね。あまり誤差が出すぎると使えないっていう話になりますが、コンピューターが高性能になってきたので、実験をやるためのコストとか時間とかに対して、対抗できるくらいの時間と精度で計算できるくらいになってきた。
それをさらに速く高精度に計算できるような大規模なスーパーコンピューターを使って、精密に研究したりするチームにいます。4月からは京コンピューターのあるところに転職します。
理研ですか
はい、任期付きの研究員です。今まで居た大学はこの3月で任期切れなんです。
いまの研究を継続するために、理研の公募に応募して。
単身赴任なんですけど。地域が地元がと色々言っているのに、飯能からいなくなるんですよ、ひどいですよね(笑)。でも、距離が離れてても色々出来るのがITのいいところなので、これからも協力できることを考えていきます。
いずれは戻ってくるつもりですし。ドージョーはこれまで協力してくれていた田島諭さんが引き継いてくれることになりました。新しいニンジャはいつでも募集中です!
日本が抱える問題とこれからの子供たちへ
日本のテクノロジー分野が斜陽になってきていると以前お伺いしましたが
20世紀は大量生産の時代で、プロダクトに日本的な気遣いがあれば売れていました。現在は多品種少量生産の時代じゃないですか。みんな、人と違うものを欲しがるし、売る側もそれに応えることができるようになって。
でもそれは日本のメーカーが支えているわけじゃなく、中国や台湾メーカーだったりするわけです。日本企業も中の人たちは頑張って考えているんですけど、組織としての行動判断が周回遅れっぽい。
中国やインドなどハングリーな人たちのほうがよっぽど考えているし、行動も早い。あちらはとにかく母数が多いから失敗も多いかもしれないけどアタリが出てくる数も多い。
そんな人達と対抗するには、ドラスティックにやり方を変えないかぎり日本はこのまま斜陽な国になるだろうと思うんですよ。
自治体も人口減とか税収減とかに対しても知恵を絞って、やるのはいいですけど、周りと同じことをしていたら、一緒に沈んでしまう。自治体もメーカーも同じ。でもどうしたらいいのかっていう打開策がなかなか見出せない。
それは日本が抱える大問題ですもんね
お先真っ暗な感じですが、それは僕も含め大人の価値観で考えるからじゃないですかね。給料も年金も福祉サービスもみんな下がっちゃう!みたいな。
でも若い人たちはどうかな?
いまはインターネットがあるので、世の中には多様な価値観があること、親の世代の価値観ではこの先ダメそうだ、と勘のいい子は気がついているんじゃないかと。
インターネットの世界は基本的に国は関係ない。アイディアが良くて、作ったものがよければ世界中に受け入れられる。
FacebookとかTwitterみたいな。Twitterはシンプルだけど、今の日本にはなくてはならないインフラみたいになってる。LINEもそうですね。
日本発で世界中に広がりつつある。アイディアがあって、それを実現するためのソフトウェアの技術があって、できたものをAMAZONのクラウドとかに乗せれば、世界中の人が使えるようになるわけです。
ソフトウェアはPCという目の前の箱だけで作れてしまう。誰でもこの小さな箱から世界を変えるチャンスがあるわけです。
これから日本が衰退していくという前提に立った時に、僕たちの周りでそういうスキルをもって、世界を変えてくれるような子供たちが出て来ればいいなぁ、と。
小さい頃からテクノロジーの世界に慣れ親しんで、スクラッチをきっかけに何かピンときて、自分が良いと思うことをソフトウェアで実現したら、世界の人たちに受け入れられるということもある。そこのきっかけを与えることができれば、というのが僕がCoderDojoをやっている大きな動機です。
その中の誰かが扉を開く可能性があるということですね
今の子供達は大人の言うこと聞いてちゃだめだと思うんですよ(笑)日本の衰退する原因を作ってきたのは、まさに僕たちなので。
そんな大人たちの言うこと聞いてちゃだめだよねっていう。彼らは僕ら世代の失敗を糧に新しい世界を作らなけりゃならない。だからDojoでは新しい世界を作る道具の使い方は教えるけど、それ以上のことは教えないほうがいい、押し付けにならないようにしたいと常に思っています。
そこに思想とかいろいろ入ってきちゃうと固めてしまいますもんね
はい。今言った「大人を信じるな!(笑)」みたいのも含め、あまり子供達に余計なことを言わないようにしています。
スクラッチのメインキャラクターはネコなんですけど、その猫の動かすプログラミングにもいろいろあって、僕は基本のやり方を伝える。それで子供たちが他の方法を編み出したり、自分で探しだせたらそれを褒めてあげたいですね。
スクラッチで登場するネコのキャラクター
今の子供達はゲーム世代じゃないですか。うちの子供もPSとかやってますけど、僕はうまくできないんですよね
うちはWiiUでスプラトゥーンやってますけど僕より4歳の次男のほうが上手です(笑)。
今子供達はデジタル世代と言われていますけど、与えられたコンテンツを消費するだけだと親の世代と同じで「その他大勢」のままですよ。自分で手を動かして何か作る人が増えないと世界に太刀打ちできない。
TwitterとかFacebookとかアメリカから来たものを、便利だね~ってぼんやり使ってるだけだと良くないと思います。
創意工夫で何か作れる人に、新しい価値を生み出せる人になってほしい。
ゲームがうまい、もいいけれど、ゲームを作るのがうまい人になってほしい。作ることを小さいうちに体験してもらうと世界が開けるんじゃないかと。
ゲームの中にいるんじゃなくて、どこかのタイミングでゲームを上から見れる感覚を養うということですね
はい、大事な感覚だと思います。
スクラッチで市販のような緻密なゲームを作るのは大変ですが、スクラッチをやり込むことで、そういうゲームを作る大変さも分かるし、逆にアイデア一発のシンプルなゲームの面白さにも気付くはずです。
近い将来、学校でプログラミングが必修になるじゃないですか。字面的には喜ばしいんですけど、プログラミングが必修になったら、プログラミングが嫌いな子供が増えると思う(笑)。
今のプログラミング教育に関わっている人たちはそこに危機感をもっていて、おざなりに履修項目を決めるとそうなっちゃうよって。
僕は教育者ではないので、そういうのとはちょっと離れたところから、コンピューターと戯れる面白さを分かってもらえるよう、その最初の一助になればいいな、と思っています。
教育色を出さない、ということですね
基本、僕は教えてないですし、みんなここに来て自分のやりたいことをして遊んでいるだけで、教えられているとは思ってないはずですよ、全然(笑)。
CoderDojoは教育や行政との関わりはないけれど、よりよい社会を目指すという意味で、シビックテックだと僕は考えています。
子供の成長のタイミングって分からないので、こちらが押し付けたり、イライラしたりするのは違うと思います。何年か後どういう世の中になっているか分かりませんが、その時の課題解決の一つの道具として活用できれば、ということですよね
今のソフトウェアのスキルが10年後も通用しているかというと多分通用しないんですよ。
もしかしたら人工知能に支配されている世界になっているかもしれないけど、コンピューターの仕組み自体はそう変わらないと思います。そこの基本的な仕組みが分かっているのと、分かっていないのとでは、やれることも変わってくるはずです。
コンピュータに積極的に関わらない人生もあるだろうけど、人生の局面でその知識が十徳ナイフの最後の一つになるかも知れないですね。
(了)