今朝、電車をホームで待っている時に知的障害の男性を見かけた。

周りをきょろきょろ見回しながら親指をしゃぶっていたので、それなりに重めの知的障害の人だとすぐに分かった。

男性と私は同じ車両に乗り込んだ。
私は男性の右斜め後方に立った。

男性は列車に乗っても指しゃぶりをやめなかった。
ずっと右手親指をしゃぶっている。

異様な光景だが、これに気付いている乗客は私だけのようだった。

みんな、何故気づかないのだろう。

そう思った時だった。

男性は右手でつり革を握りしめた。
今しがた自分で指しゃぶりをしていた手でつり革を握ったのだ。

次の駅に着くと私は空いた座席に座った。
その席からは男性を正面から見ることが出来た。

見たくない。
そう思っているのに視線は男性に注がれてしまう。

私は彼の斜め後ろにいた時、彼氏は右手の親指だけをしゃぶっているのだと思っていたが、正面から観察していると男性はなんと両手の5本の指全てをしゃぶっていたのだ。

指を一本一本違うものに変えて男性は指しゃぶりを続けた。

電車が動き出すと男性はポールに掴まった。
体が大きいからポールにも手が届くのだ。

それを見て冷房の効いた車内の温度がさらに下がった気がした。

その直後、前の駅で電車に乗って来た若い女性が、先程まで男性が握り締めていたつり革に掴まった。

あ!

思わず私は心の中で声を上げた。

私は次の駅で降りたが、さっきまで見ていた光景で頭がいっぱいだった。

一時期スシローで醤油を舐める少年が話題になったが、あれは意図してやったものであり、あれだけ周囲から責められたら二度と同じ真似は出来まい。

しかし知的障害の男性はどうだろう。

彼はきっと半ば無意識に自分の指を舐めた手でいろんな物を触りまくっているのだ。
しかも何故それをしてはいけないのかも分からないのだろう。

意図しないにしても男性の行為は褒められたものではない。
他害、とまではいかなくとも迷惑行為であることは間違いない。

両親は彼の指しゃぶりの癖をどう思っているのだろうか。

指しゃぶりが止まないなら一人で外出させるべきではないのだろうか。
しかし指しゃぶりをした手でものをべたべた触るから家から出るな、と言うのはそれこそ人権侵害だ。

ならどうすれば良いのか。

朝からずっとそれを考えているが、答えは出ないままである。