また僕は砂漠の海にいる。また僕はここにやって来た。金色に輝き出す 空に、巨大な三角形のシルエットが目の前に迫ってくる。夕日は、ゆっくりと けれども確実に砂山の向うに消えていった。ひっきりなしに係員の笛の音が あたりにこだまする。「フィニッシュ、フィニッシュ」そう叫びながら僕らを 会場の外に出そうとする。ピラミッドは意外に早く閉まって しまう。まだ5時だというのに、場内にはほとんど人が残っていない。 けれども、そんな目に遭いながらも僕らは 太陽が砂に吸い込まれるように消えて行く様だけは、しっかりと 堪能させてもらった。
 


夕日に反射するピラミッド


 思えば今日はスタートが遅かった。午後一番で出たつもりではあったが、 いろいろな所に寄りながらバスターミナルまで行き、そこでバスをかなり待った 挙げ句、渋滞に巻き込まれてしまい、ピラミッドに到着した時には既に4時近かった。今日は一人ではない。「おっちゃん」も一緒だ。バスの中では エジプトの大学生と仲良くなり、いろいろと話しをしながら行くことができたので あまり退屈はしなかった。但し、バスの混み方が半端ではなくて、かなり 息苦しい旅となってしまった。

 バスを降りたとたんに、「ピラミッドは4時で終わりだよ。だから是非とも 俺のラクダに乗ってピラミッドが遠くから良く見える所に行った方が良いよ」という 誘いが複数からかかる。4時で終わりというのが本当かどうか分からないが、 とりあえずラクダに乗る気は無かったので、とにかく入り口まで行ってみる。 4時で終わりという情報はどうやら本当の事だったらしい。キップ売り場は 閉まっていて今日はもう無理だというではないか。けれどもこんなに苦労して ようやく辿り着いたピラミッドだ。どうしても中に入りたい。 そう思い、何とか交渉すると、ようやくキップを発行してくれ、僕らは中に 入る事が出来た。

 入り口を抜けるとすぐにスフィンクスが目に入る。そしてその右手に クフ王の、正面にカフラー王の、そして左手奥に メンカウラー王のピラミッド達が昨日と全く変わらない様子で鎮座している。 「スフィンクスって意外と小さいんですねえ」と「おっちゃん」が昨日僕が 持った感想と同じ言葉を吐いた。僕らは閑散とした坂道を登って、とにかく クフ王のピラミッドの方へと歩いて行った。昨日あれほどにぎやかだった ピラミッドの脇には人っ子一人居ない。わずかにロバ乗りの商売の男が 何人かと、警官が何人か所在無さげに座っているだけである。

 


ロバのおっちゃん。哀愁が漂う


 クフ王のピラミッドを一周しようとしたが、4分の1周したところで、警察に 「今日はもう終わりだから、すぐにここから出て行ってくれ」と言われる。 そんなことを言われても、僕らはたった今ここに来たばかりであり、せめて もう少しだけでもここでゆっくりとしたい。いろいろと押し問答を繰り返したが、 (若い警官はすぐにバクシーシを請求してきたが、年老いた警官はそんな若い警官を 叱咤し、規則だからどうしても駄目だと突っぱねた)どうしても受け入れて もらえず、僕らはとにかく一周だけはさせてもらうことにして、足早に そこを去る事になった。
 


おっちゃんと行ったピラミッド


 カフラー王のピラミッドでもそれは同じで、昨日もここを訪れている僕は まだしも、ここに初めてやってきた「おっちゃん」になんだか申し訳ないような 気がした。1時間も経たないうちに、僕らは出口近くのスフィンクスの 場所まで追いやられた。そのスフィンクスが良く見える場所にも それほど長くは滞在できなかった。ただ、そこを出る頃から太陽が 夕日へと変化しており、とにかくその景色だけはなんとか頼んで 見させてもらう事ができた。

 今日でこのピラミッドは二回目だが、どうもまだ満足できない。もっともっと 悠久の歴史に浸りたい。そんな欲求不満が残ってしまった、そんなピラミッド 訪問だった。