今日はシラーズに向おうと思っている。僕のもっている世界地図の旧跡・名所 マークがシラーズの近くのぺルセポリスというところに付いていて、だから そこには絶対に行こうとずいぶん前から決めていた。旅行者の話によると やはりそこは観光名所になっているらしく、けれども皆一同に「たいした ことが無かった」と言っていた。しかし、やはり自分の目で確かめないと気が 済まないので、誰が何と言おうとそこを訪れようと思っていた。実はイスファハンに 来たのも、シラーズまでの手ごろな中継地点という意味合いしか持っていなかった。 ここが、イラン随一の観光都市で、「世界の半分」と謳われた大都会だった ということもすべてテヘランで「はったり君」に教えてもらったことなのだ。 僕の目的地はあくまでもシラーズ。だからトルコに行くには全く逆方向なのにもかかわらず、南下を続けている。

 朝、とても早く宿を出た。といっても宿を出たのは7時半過ぎだったのだが、 他に誰一人起き出してくる様子も無い。バックパッカーというのは朝寝坊が多いのだろうか? ホテルの前でタクシーを拾って、早速バスターミナルを目指す。バスターミナルには 8時少し前に到着した。イランには沢山のバス会社があって、同じ路線でも 違う会社がサービスを提供している。結果として競争が生まれ、サービスが良くなったり 、料金が安くなったりしている。これはとても良い事で、お陰で僕たちは快適な バス旅行をすることができている。最初のカウンターでシラーズ行きのバスの情報を 聞くと、次のバスは9時発だという。これから1時間も待たなくてはいけない計算だ。 どうしようかなあと思い、次の会社を当たってみると、ここは9時30分発だと 言った。そして係員は「このバスはエアコン付きの豪華バスだよ」と教えてくれた。

 複数の会社が入り、競合が生まれている事で、バスの種類もいろいろなものがある。 その中でも一番豪華なのがボルボ製のエアコン付き豪華バスで、これはもう 日本で走っているバスよりも豪華かもしれないくらいの代物だ。これには一度 乗ってみたいと思っていたので、このバスを試してみる事にした。料金も他のバス に比べて1.5倍くらいする。シラーズまで13000リアルだった。まあそれでも2ドル 強なのだが。

 時間が余ったので、朝食を摂ったり葉書を書いたりしながら時間を潰す。そして 9時半少し前にカウンターに行くと、先ほどの親父がとんでも無いことを言い出した。 なんと実はバスは10時発だというのだ。先ほど彼は嘘を付いた。他の会社 に僕が逃げないように、嘘を付いたのである。そんなことをするこの8番の会社( イランのバス会社は番号で呼ばれる)に不信感を持ってしまう。一度そういう 不信感を持ったからかもしれないが、シラーズまでの道のりはそれほど快適という ものでもなかった。確かにエアコンは効いていたがそれだけだ。10時発だと いうのに、バスは10時20分過ぎにならないとやってこないし、出発したと 思ったらすぐにこの豪華バスに付くサービスであるジュースやケーキを仕入れる 為に停まってしまった。他のバスは乗客を乗せる前にこの準備を済ませているのに、この会社では乗客を乗せた後に準備を始める。

 最初僕は3列めの窓側に座っていたのだが、外の景色を見ようとカーテンを開けると、 冷房を入れているのだからカーテンを開けてはいけないと言われてしまう。その後 僕の隣に人が来なかったものだから、僕は席を移されることになった。移された席は 一番前だったので、景色を見るにはよかったのだが、座席の前にすぐ仕切りがあって、 足が窮屈でしょうがない。乗務員の愛想もいままでより相当悪いし、冷水サービスも 仕方なくやっているという感じで、印象が良くなかった。ここまで来る時に乗った 1番の会社は乗客第一という主義が徹底していただけに、その「あら」が目立ってしまう。 ハードだけ良くても、ソフトが伴わないと駄目だ。これからは8番の会社 は出来るだけ避けようと思った。サービスにと出てきたジュースもあまり 冷えていなかった。乗務員達は彼らだけコップに氷を入れて冷やして飲んでいる。 つまりそういう会社な訳だ。

 景色はまた単調だった。イランというのは砂漠の国。乾いた山を登ったり 、降りたりを繰り返しながら、ずっと茶色い世界をひた走った。中国のシルクロード で最初に砂漠を見た時には、それなりに感動したものだが、こう砂漠が続くと いいかげん飽きがきてしまう。たまにオアシスの街を通り過ぎる時に、緑溢れる畑が 広がっているのが唯一の変化だった。最後の山を越えると、眼下にシラーズの街が 見えてきた。いくつかの青いドームが遠くからでも茶色い街に浮き出て見える。 8時間の行程だった。

 


単調な景色


 バスターミナルに着いてから、すぐに地図を購入する。久々にホテル情報が 無い街に来たので、いったいどの辺にホテルが固まっているかを探る必要があった。それによると、メイダネ・ショハダというあたりに盛大にホテル マークが付いている。きっとこの辺だろうと思い、とりあえずそこを目指す事に した。ところが、この地図、とっても「良く」出来た地図で、バスターミナルの位置が 全く書かれていない。つまり現在位置がわからない。そこで適当な人に地図を 見せて、バスターミナルの位置を聞くと、どうやらバスターミナルの位置は このメイダネ・ショハダからほんの300~400メートルの位置にあるではないか。 これならば歩いていけるなと思い、彼に簡単に行き方を聞いて、歩いて行く事に した。

 ところがずいぶん歩いても一向にそのメイダネ・ショハダには到着しない。 おかしいなあと思い、他の人に聞くと、それは結構遠いからタクシー で行くしかないと言われた。僕がバスは無いのかなあと聞いてみると、それならば バス停まで案内しましょうと親切に道を教えてくれる。ところが、一緒に来てくれる と言っていたその彼も、何故か途中で消えてしまう。子供たちがバス停ならそこだよ と教えてくれたので良かったが、なんで途中で消えてしまったのかが不思議だった。 ところでバス停に着くと、切符売りの親父がメイダネ・ショハダ行きのバスなんてないよと言う。さっきの兄ちゃんはバスでも行けると言っていたのに、また はったりだった。結局タクシーでメイダネ・ショハダまで行き着いたのだが、 久々に苦労した。なんで皆知らないのなら知らないと言ってくれないのだろう。 中途半端に教えてくれるものだから、結局遠回りになってしまう。これじゃあ まるでインドだ。インドでは「知らない」ということがとてもプライドを傷つけられる ことなので、知っていようと知らなかろうとなんでも良いから答えるという風習が ある。イランも案外そうなのかも知れないなあと思った。

 さて、ホテル探しだ。と、一番最初に入ったホテルで、僕は停滞してしまった。 外見が大した物でもなかったので、安心して中に入ったのだが、なんとそこは 4つ星ホテル。料金をきいてみるとシングルで47ドルもするというのだ。これは ちょっとおよびじゃないと思いつつも、一応部屋を見せてもらった。そうすると ここしばらく泊っていたホテルとは比べ物にならないほど、というか比べるのすら 申し訳ないほど立派な設備が整っている。広い部屋にふかふかのベッド。ベッドと ベッドの間には高そうなカーペット。冷蔵庫に テレビにもちろんエアコン、そしてバスタブまで付いているではないか。フロント に戻って僕が考えていると、彼らは値段を45ドルに下げてくれた。とはいっても 大金だ。やはりそれはちょっと高すぎるだろうと他のホテルに行くことにした。 すると彼は40ドルまで値を下げてくれる。そしてよくよく聞くと、ここはリアルの 換算レートが銀行レート、つまり1ドル=3000リアルなのだそうで、リアルでいうと 一泊12000リアルだという。闇で取り替えている僕にとっては、それは 20ドル強の値段でしかない。たったの20ドル強で4つ星ホテルに泊れる 機会なんてそうあることではない。そう思い、ここは一発奮発することにした。