弱い光が窓から差し込んでくる。今日もロシア語レッスンだ。今日は「自己紹介」 だった。「僕の名前は....」「僕の年は....」等などだ。相変わらずロシア語の 発音に手間取りながらもいくつかのフレーズを覚えて行く。早朝レッスンは なんだか心地よい。

 飯を食っていると、バネッサがまたやってきて、こんな提案をしてきた。 「実は私も大学に行ってインターネットをやろうと思っているんだけど、 そこで一つ提案があるの。あなた昨日2000テンゲで10時間出来るって 言っていたわよね。お互い5時間づつ使うという事でシェアしない?」 悪い提案ではない。僕は5時間も使う予定はないが、3時間くらいならつかう かもしれないということで、じゃあ3時間分で良いならその話に乗るよと 合意した。そこでまた大学にむかう。本来は今日はインターネットをする 予定など無かったのだが、そういう事ならと1時間ほど使わせてももらった。 昨日よりも幾分スピードも速く、だから1時間でも相当のことが出来た。

 それから彼女と二人で今度は図書館に行ってみる。図書館でもインターネットが できるという噂だったのだ。しかも無料で。ところが彼女は何度かそこを訪れたり 電話したりしていたのだが、「今日はできないの。たぶん明日には つながるわ」という返事が毎日続いており、ほとんどあきらめていたのだが、 一応行ってみる事にしたのだ。が、案の定メールは送れるがインターネットは できないという。だからもう僕らは図書館をあきらめる事にした。

 それから彼女と食事をして、僕らはお互い別々の行動を取る。彼女はキルギスタン 大使館へビザを取りに、僕は楽器博物館へと行くことにした。 ドスティック大通りというカザフホテルの前の通りを北へとのんびりと歩いて行く。 途中楽器を演奏している人が居たので、それを聞こうと思って立ち止まったら、 彼はいきなり演奏を止めて僕に握手を求め、それからいろいろと話し掛けてきた。 当然何を言っているのかさっぱりわからない。それが分かると今度は彼は たばこを吸いはじめる。本当は演奏が聞きたかったのに、どうやら彼は休憩体制 に入ってしまったようだ。しょうがないので僕はニコニコしながらその場を 離れる事にした。

 


カザフスタンホテル


 今日は空気が気持ち良い。変わり易いこの街の気候では油断できないが、いまのところは 穏やかな風と暖かい空気が満ち溢れている。太陽もやさしく輝いている。湿度も 低く、まるで北海道の春の天気を彷彿させる。ドスティックを真っ直ぐいくと 公園に突き当たった。バネッサによると博物館はこの公園の先にあるという。 その時、そう言えばここが日本大使館のすぐ側であることに気がついた。 時間もある事だし、また新聞でも読ませてもらおうと大使館を訪れる。
 


街からはいつも山が見えた


 今日の大使館はにぎやかだった。商用の日本人ビジネスマンらしき人が 何人か出入りしている。そんななか、新聞を開いてみるのだが、旅をしている 僕としては一つショックなニュースがあった。日本の大学生がインドのダージリン 地方で遺体となって発見されたということ。そしてその時には所持金も 貴重品もすべて持ち去られていたということだ。やはりそれは今の僕にとっては 他人事ではない。いままで一年間は無事に過ごせていたが、これからは 更に治安の悪い地域に突入して行くわけで、これからどうなるかなんて 誰にもわからないのだ。こんな記事を見る度に、気を引き締めなくては ならないと思う。

 せっかく大使館に来たのだからいくつか聞いておかなくてはならないことが あった。一つは運転免許証の更新。もう一つはパスポートの更新だ。目前 に迫っている今度の誕生日で免許証の更新日がくる。けれども僕はこれから 約一年は日本に帰らない訳であり、それでその更新方法について聞いておいた ほうが良いと思ったのだ。人づてで、その時に海外にいたことが証明されれば 大丈夫だときいてはいたのだが、大使館のお墨付きがあるに越した事はない。 それから、パスポート。スリランカで一度ページを増やしてはもらったが、 この先の行程を考えると、すぐにパスポートの査証欄が埋まってしまいそうだ。 ページを増やすのは一度しかできないので、パスポートを新たに作り直す 必要がある。だからそのことについても一度確認をとっておく必要がある。

 そう思い、窓口のカザフ人の女性に問い合わせてみると、しばらくして なかから日本人の大使館員が出てきてくれた。僕と同じかそれより少し上くらいの 若手の大使館員だ。そして、僕は何故かその後彼と2時間半ほど話し込んで しまった。問い合わせた件に関しては免許についてはやはり聞いていたとおり、 帰国後一ヶ月以内であれば問題無く更新できるとのこと、それから パスポートについては新規申請という形になり、その場合戸籍謄本が必要だ とのことを教えてもらった。ただし、査証欄が無くなっての更新というのは 彼の知る限りにおいて前例は無いらしく、だからどれくらい足りなくなったら 申請できるかなどということはその大使館しだいだろうとのことだった。

 ところで、彼とは他にも沢山の話をできた。たとえば現在カザフスタンには 日本人が約100人住んでいるという事。ほとんどが商社関係で、大抵の 商社がここに駐在員事務所をもっているという事。日本食レストランが街には 二軒あって、どちらもとてつもなく高いということ。この大使館には日本人職員が 10人、現地採用が10人ほどいて、これは大使館としてはかなり小さいという こと。(アメリカ、ロシア、イギリスというのがやはり大きな大使館に なるらしく、日本人職員が100人近くいるらしい) 日本大使館は4月に移転したばかりであるということ。などなどカザフスタンの 日本情報の他にも、最近のカザフスタンの情勢や、インド-パキスタンの 情勢などの近隣諸国の情報も教えてもらう。

 彼によると、このカザフスタンも夏になればわりと多くの日本人旅行者がやってくる のだそうだ。そして、ビザ関係のトラブルで大使館のお世話になる人が多いらしい。 彼によるとある国ではインビテーション無しでビザを発給してしまうらしく、 そこでとったビザをもって入ってくる場合にはトラブルになる場合が多いと 言っていた。あと、最近は日本人旅行者相手の強盗事件もあったそうだ。 男女二人のカップルで10時過ぎに駅につき、タクシーに乗ったところ、 そこで銃を突き付けられ1000ドルほどを奪われたのだそうだ。大使館の方 によると、これは地元でも大きく取り上げられたほどの大事件だったらしい。 インドあたりではこんなことは日常茶飯事でそれほど大きな ニュースになることも無いので、つまり 基本的にはここは治安も良く、それほど心配する必要は無いのだそうだが、 それでもそんな事件が存在するということだ。特に警官が信用ならないらしい。

 その他にも最近アフガニスタンで日本人のバックパッカーが消息を絶った話など ちょっと物騒な話も教えてもらう。久々の日本語の会話で楽しかった事は 楽しかったが、同時に自分を戒める良いきっかけにもなった。

 気がつくと6時を回っていたので、博物館は止めにして、公園をうろついてみた。 近くには大きな教会がある。吸い込まれるように中に入って行くと、なにか 儀式が行われている最中だった。讃美歌が流れ、人々が黙とうしている。 そんな様子をチョットだけ見学して、また公園を散歩した。今日は天候の変化 も無く、一日中本当にさわやかな天気だった。