何が子供にとって幸せなのか、どうすることが子供の幸せにつながるのか | きみが輝く時

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ある日の休み時間、運動場に、黒い翅に青緑色の 美しい帯が貫いているアオスジアゲハが飛んでいました。二人の女の子が「つかまえたい」 とつぶやきながら、チョウを追いかけていました。アオスジアゲハは素知らぬ風で、ゆら ゆらと飛んでいきました。

 

 そして、その日の4校時、3年生の子たちが職員室前の廊下で、理科の実験をしていました。ゴ ムで動く車を使って、ゴムをのばす長さと車が動く距離について調べていました。時々歓 声が聞こえてきました。みんな夢中で実験していました。 

 

その時、一匹のアオスジアゲハが飛んできました。20 分休みに、女の子たちに追いか けられていた、あのアオスジアゲハだと思います。理科の実験に夢中だった子供たちも、 しばし実験を中断し、アオスジアゲハがゆらゆらと飛んでいる姿に見とれていました。

 

 アオスジアゲハは、幸せを呼ぶチョウと呼ばれる「ユリシス」と似ています。「ユリシ ス」には、一度見ると、幸せになれるという言い伝えがあります。 残念ながらアオスジアゲハには、幸せを呼ぶという言い伝えはありませんが、子供たち がアオスジアゲハに見とれていた時間は、幸せな時間だったと思います。 

 

幸せは追いかけるものではなく、訪れるものなのかもしれません。

 

 ノーベル賞作家メーテルリンク著作の童話に『青い鳥』があります。貧しい家庭のチル チルとミチルという兄妹が、幸せの青い鳥を求めて夢の中をいろんな場所へ旅するのです が、結局見つかりません。夢から覚めると、部屋で飼っていたキジバトが、なんと青い鳥 に変わっていました。本当の幸せとは、どこか遠くにあるのではなく、ごく身近にあるも のだ。一般的には、童話『青い鳥』はこんなお話として知られています。

 

 しかし、原作を堀口大学が翻訳した新潮文庫の『青い鳥』には、この続きが描かれてい ます。

 

 「青い鳥は家にいたんだ」と大喜びした二人ですが、喜んでいたら青い鳥は飛び去って しまいました。最後にチルチルはこう言います。 「どなたかあの鳥を見つけた方は、どうぞ僕たちに返して下さい。僕たちが幸福に暮ら すために、いつかきっとあの鳥が必要になるでしょうから」 幸せの青い鳥は逃げていってしまったのです。 

 

なぜ、メーテルリンクは子供向けの童話なのに、こんな絶望的な結末を用意したのでし ょうか・・・・・・おそらくメーテルリンクは、幸せとは何か、どうすれば幸せになれるのかと いった問いに安易に答えるのではなく、自分でしっかりと考えてほしいというメッセージ を子供たちに残したのではないかと思います。

 

 「子供に幸せになってほしい」と願わない親はいません。しかし、幸せに形はなく、永 遠に続く幸せもありません。幸せとは瞬間のもので、必ず過ぎ去っていくものです。 何が子供にとって幸せなのか、どうすることが子供の幸せにつながるのか、教師 や親は、メーテルリンクが残したメッセージを、子供たちと共に考えていかなければなら ないのだと思います。