空が茜色に染まってく
これが白銀世界のモルゲンロードか…

04:47 茂倉岳


昨夜もまた暖かかった。

標高2000mなのに奇跡的に一晩中無風だったのでテント何に熱が篭り、ウールの厚手の靴下を脱ぎたくなるくらいだ。


谷川連峰の稜線はかなり変わってて、西の平標山から谷川岳へ向かって直線的に続く"主脈エリア"と谷川岳から馬の蹄のように弧を描く"馬蹄形エリア"とからなる。

普通はどちらかの一方のコースを歩き、谷川岳から天神尾根を経てロープウェイで下山する人か殆どみたいだけど、わざわざ大阪から来たので4日かけて全部歩くことにした。


水場は初日に立ち寄った平標山の家だけ潤沢に流れ出ててそれ以降は雪を煮沸して使ったので、水はいつも潤沢にあった。


トイレは平標山の家と谷川岳肩の小屋のみ。

他の場所で催したら適当な平地を探して野に放つしかない。


まぁ…

これはどの山も同じだ。


で…

一つだけめっちゃ気になることがある。

こんなに天気の良い日なのに、こんなに綺麗な景色が見れるのに、こんなに長閑な山道なのに、なんで誰も歩いていないの!?


おかしくないかい⁉️

関東の山屋はみんなどこを登ってるんだ❓


もしかしたら危険なのかも…

とは最初から思ってたけど今のところアドレナリンが吹き出るようなのは2日目の"主脈エリア"でガチガチに凍った大障子岳の西壁くらいだ。


よじ登るべき岩壁が凍ってツルツル滑りどうしょうもないので、岩壁は諦めて笹壁をよじ登るしかなく、後から来た老人もそうしたみたい。


まぁ…

危険箇所はそこだけだった。

818人の幽霊ゾーンを越えると雪で小屋が埋もれてたものの、テントを張って快適に過ごした。

そして今目の前には長閑な風景が広がってる。


そんな風に思っえてたのは、この蓬ヒュッテを越えて七ツ小屋山の手前までの話だったりする。


山容は一変した。

雪の量が一気に増えて難易度が一気増した。

雪面の直登&直降&ナイフリッジが順番にやってきた。

しかも斜面が切れ落ちてるのでもし足を滑らせて滑落すると命はない。

普段あまり使わないストックを突いてバランスを保ちながら細心の注意を払い半歩づつゆっくり進む。


11:18 白崩避難小屋

ふ〜‼️

そしてなんとか最後の安全地帯"白崩避難小屋"まで辿り着くなり神様に怒り電話をかける。

「殺す気か〜💢」

「え…のらさんなら絶対に大丈夫なはずだよ。少し雪はあるけど慎重に歩けばいいよ。ジャンクションピークの手前と、白髪門からのくだりだけ気をつけてね。」


で…ジャンクションピークに向かって進むと更に雪が深くなり、一つだけあったトレースがなくなる。

最早、これは雪山だ。

しかも登口の右手側が切れ落ちてる。


無理だ…(ToT)

生きて帰れる気がしない。

神様はなんてコースをオススメしてくるんだ。


もうエスケープすると決めて、白崩避難小屋に戻ってきた。

なんなら今すぐエスケープしてさっさと大阪まで帰ろうかとも思いつつ調べると…

エスケープルートもまた誰も歩いてなし、当然、雪斜面のトラバースがあるだろうし、トレースがなければ遭難のリスクがでてくる。


で…引き返すとなるとさっきヒビリながら越えたばかりの、直登&直降&ナイフリッジをまた歩かないといけない。


マジか…

八方塞がりじゃないか。

そして再び神様にクレームを入れる。

「リタイヤします」

「そっかそんなに大したことないんだけどね。初めての山で一人は怖いよね。安全にエスケープするとしたら茂倉岳から稜線沿いに降りるのがいいと思うよ。」


するとそこに一人の爺さんが歩いてきた。

「今日はここで泊まりますか」

「はい。どちらからですか」

「巻機山から縦走してジャンクションピークから降りてきました」

「え…危ない箇所ありました❓」

「ないですね。私はノーアイゼンで降りてきました。トレースもあるし迷うこともないと思います」


この爺さんがノーアイゼンって…

やはり神様は正しかったんだ。

やっぱり進むぞ〜‼️

軽アイゼンさえ装着すればいけるはず。

俄然ヤル気がでてきた。


爺さんとボクは直ぐに意気投合した。

爺さんからは甘い香りのスコッチウィスキーをご馳走になり、ボクはニンニクと玉ねぎの炒め物をご馳走した。


この爺さんは東京の山岳会に所属してるらしく登山暦40年の大ベテランだそうで、本州の分水嶺を踏破したんだとか…


「山は死と隣合わせですから、うちの山岳会でも3人が命を落としました。あなたは若い。是非山岳会に入ってください。」

3人も死んでるなんて…

大ベテランなのに勧誘は下手みたいだ。