暖かかった…
見た事のない不思議な形をした小さな避難小屋だったけど、雪国だからか断熱が素晴らしくて、寒さは一切感じなかった。
隣で寝てた大男なんてシェラフから上半身が外に出てたまま朝まで轟音のイビキが地響きのようにこだます。

05:00 エビス大黒避難小屋
なかなかアグレッシブな起床であった。


朝食を食べながら昨夜の出来事を思い返してみる。

大男は星空が大好きみたいで自慢の一眼レフカメラでひと晩中撮影しながら夜空を眺めてたんだろう。


彼と出会った夕暮れ時に伝説のメジャーリーガー"ベーブルース"がホームランを予告するかのように、遥か彼方の稜線を指差してボクにこう言ったのだ。

「今夜あの辺に天の川が見れるはずなんです。気温が高いせいか空気が澄んでないので肉眼では厳しいかもしれない」

「ギリギリ見れるか見えないかって感じですね」

そんな風に彼は天の川をボクに予告したのであった。

「じゃあ折角なのでボクも午前0時に起こしてくださいな。」


そして午前0時はあっという間にやってきた。

飛び起きた大男は慌てて外に出ていった。ボクも続いて外に出て夜空を見上げると…


08:25 万太郎山


「え…凄い」

「なんでかわからないけど、天の川が真上に見えますね」

稜線の側ではなく真上に天の川が見えてしまい予告が大きく外れてしまったので、とても申し訳なさそうにしている大男が可笑しかった。


エビス大黒避難小屋から谷川岳肩の小屋まではずっと一人でトレースをつけながら歩いた。

主脈を歩ききったとき後から来た老人がボクに言った。

「久しぶりなのでちょっと不安だったんです。トレース助かりました。ありがとうございました。」


14:00 谷川岳肩の小屋

絶好の五月晴れであり森林限界が1,500mと低いので360°のパノラマが果てしなく続いた。


久しぶりといいつつもその老人は谷川岳の常連らしく、この辺の山を知り尽くしてた。

「ボクはここから天神尾根をくだりロープウェイで下山しますが、時間が許すなら是非馬蹄形を歩いてください。」


そして谷川岳の主峰に到着‼️

双耳峰になっててトマノ耳とオキノ耳という2つの山頂を持つ。


つい数日前にここから天神尾根を経てロープウェイへ向かう道中で、夫婦ハイカーの旦那さんの方が300m滑落して命を亡くしたらしい。


そもそも…

谷川岳って世界一多くの遭難者を出した山としてギネス記録を持ってるらしく、別名「魔の山」と呼ばれてて累計死者数はなんと818人。


もともとこの日の宿を一ノ倉避難小屋に予定してたんだけど、神様からそれだけは辞めた方がいいと止められた。

なんでも818人の殆どはクライマーらしく一ノ倉岳へ向かう絶壁の途中で滑落死しているんだとか。

なので818人の幽霊と寝る覚悟がないならその一ノ倉避難小屋は避けた方がいいみたい。


一ノ倉岳から茂倉岳へ向かう雪の稜線は圧巻だつた。

シックスセンスのないボクには見えないけどね。

818人の幽霊がぷかぷかと浮いてそう。


14:46 茂倉岳

神様に連絡してみる。

『体調どう?』

『いつもどおりで全く良くない。^_^』

でも食欲はでてきたみたいでサラダとパスタを食べたんだとか。


で…

この日お世話になるはずの茂倉岳避難小屋に到着してビックリ。


埋まってるやないか〜い‼️


神様からも先ほど出会った老人からもこの小屋は広いし近くに水場もあるとオススメされたんだけど、どう見ても小屋も水場も雪の中だ。


仕方なく再び茂倉岳に戻ってきてテントを張ることにした。

標高約2,000m天空の絶景キャンプ‼️

おそらく今シーズンはここよりも綺麗な場所に泊まることはないと思う。


夕食は鶏肉のクリーム煮込み。

最終日の夜の楽しみに飲もうと思ってた新潟県の地酒"雪男"を眺めたら我慢できなくなって、身体を温めるためと自分に言い聞かせて呑んでしまった。


日が暮れてから一人で夜空を見上げた。

やはり天の川は真上に流れてた。