イメージ 1

 やっと定期検診が三ヶ月に一度のスタンスになった。子宮がんになって毎月何度も病院に行ったりしてた毎日から少しずつ母体から離れてゆくような或いは居残り講習を受けなきゃ卒業できないような生徒が少しずつだけど、病院の検診から離れてゆく事が
嬉しいような淋しいような。

何もきかないでほしいと、アタシはアタシに向かってつぶやく。
何をしてきたかアナタはきかないで、と。
だってこうしていると昔からアナタとアタシ知り合いみたいじゃない。
アナタはアナタのアタシはアタシのさみしさとか面影とか
互いの心の隙間を埋め合えればそれでいいじゃない。
もっと早く巡り会えたなら、そりゃ悲しい秘密はなかったはずだけど。
なってしまったんだもの、仕方ないじゃない。

悲しい秘密。

大病が教えてくれた事は計り知れない。
だけど、ならなきゃそれがわからないなんて、それもどこかもどかしい気がする。
卵巣を温存しますか?それも可能だった。
遺伝子は人という形の乗り物にのってゆっくりゆっくり時をかけて
旅をする。それをまた乗り換えて、また乗り換えて、人という生き物があるかぎり
進化し続けながら旅をする。
アタシはそれをあきらめた。
それから、悲しい秘密を抱えてしまった。
悔やんではいないけど、夫の両親や実の両親には謝っても謝りきれない。

こんな雨の日には傷がうずく。
ないはずの子宮が卵巣がうずく。
切り取られた膣の傷がじくじくする。
そんな時、思い出す。
悲しい秘密。

最近、高齢で出産する人が多いと聞く。
45歳でも産める。
産めるうちに産んだ方がいいにきまってる。
悲しい秘密を抱いて生きてほしくない。
こんなのは人には薦めたくない。

夏の疲れだと思って放っておいたあの年。
ちょっとでも違和感、異変を感じたならば、是非病院へ行って検査することを薦める。
もしアナタの彼女が、奥さんが、親族が、なんだか調子が悪そうだったら、首根っこつかんでも連れてゆくべきかも。
幸せな性生活を送りたいのなら、子孫を残したいのなら、女の人を大切にしてあげて欲しい。
一時の快楽を楽しみたければそれもよかろう。
性の快楽を覚えてしまった者であれば、それを止めることはなかなか難しいことだから。
だけど、自分のカラダを防御するのは自分なのだから。
男だってそういう事を感じて欲しい。
自分の好きな人が或いは女という人間全部が癌に冒されてしまったら、男子諸君はどうするんだろうか。
もちろん、その逆もしかり。男が生殖器のガンになったら。アナタがしたくても子どもを欲しくても相手がそうなってしまったら。

子宮がんの最もな原因に性生活があげられうようだが、必ずしも関係性があるものだとは限らないと、アタシの担当医師は言う。
事実、そんな性の快楽もろくに知らず、結婚もしていない若い女性が告知される事もあるそうだ。
誤解が誤解を生んだまま、世の中にはびこっている事実は多い。
子宮がんの原因なんかまだわからないようだ。
ただ、みだらに戯れにその行為を繰り返した者にはそれなりのツケはあるだろうけど。
それは病気でというよりも、人間関係や人として生きてゆく上での代償としてのツケかもしれない。

乳がんのようにまだまだ表に出てこられない子宮がん。
これは部位が部位だけに、個人差もあることだけに、簡単に表向きに出てこられないような気がする。
「アタシ子宮がんになってしまったんですよ」
あまり言えない事だろう。アタシもさんざん迷った。さんざんさんざん。
別に言わないでもよかったのかもしれない。
だけど、アタシが告白する事で、少しでも多くのひとがこの病に感心を示し、
独りで悩んでないで、まずは病院へ言ってくれる事を望んだからだ。
そして早めに処置する事が一番だと身を持って体験したからだ。
アタシのように悲しい秘密は持たない方がいい。

もちろん、子宮がんだけではない。
少しでも変だなと思ったら、病院のドアをノックすべきだ。
アタシの知人は手遅れで亡くなってしまった。
食道がんだった。
最後には水すら飲む事が出来ず、なにも口に出来ずに逝ってしまった。
病院の誤診もあった。これはもう悔しいばかりだ。
だから、がんだと、告知されたら、セカンドオピニオンも薦める。
なにが一番いいのかは正直わからない。答えはないかもしれない。
でも、自分が納得するまで、とことん調べるのも
病気がそうさせる努力だと思う。

アタシは順調だ。
アタシは昔の自分を消そうという事も、もうやめた。
だから、何もきかないで。何をしてきたか、きかないでと、
新しい自分にいつも言い聞かせている。
二人の自分が自分の中に存在することにまだ戸惑いはあるけれど。
それもそのうち、どうにかなることだろう。
二人の自分でもう一人の人間を演じるのも、これも楽しい事だ。

子宮がん。
アタシは3年生の秋を迎えた。

曲は荒井由美時代のアルバム『COBALT HOUR』から。『何もきかないで』
http://www.neowing.co.jp/detailview.html?KEY=TOCT-10713

写真 てなわけで。きょうは熊本土産の栗を使って、焼き栗ごはんを炊いてみましたとさ。生きてるとこんなおいしい事もできる。