私の勤務先は、主に認知症患者をケアする閉鎖病棟。

 

なぜ❝閉鎖❞されているのか?

 

患者さんの多くはADL(日常生活動作)が高めで離棟(脱走)の可能性があるからだ。

 

病棟で過ごされる患者さんは高齢者ばかり。

 

いずれの患者さんとも、いつか必ず別れが来る。

 

配属病棟は、基本的に終末期の方は居ない。

 

それゆえ、ここで言う「別れ」とは他病棟への移動もしくは他施設への転院、そして、入職以来1件も無いが身内などの介護者の元へ行かれるための退院ということになる。

 

今でも、思い出しては切なくなる患者さんの一人に、ツタヨさんがいる。

 

「眠れますか?」

 

いつもツタヨさんが口にしていた言葉だ。

 

眠れないのでは?と不安に思われているのではなく、部屋に戻って休むことが出来るのかを心配されているのだった。

 

一日を通して、眠れますか?と尋ねるツタヨさんに、眠れますよと返し、その度ツタヨさんは安心したように笑顔を見せるのだった。

 

入職して1ヶ月経つ頃のこと。

 

「怖い、思い出せない、怖い」

 

と口にするようになり、時期を同じくして自身の氏名を叫ぶようになった。

 

自分が誰なのかも忘れつつあることを感じておられたのだろうか。

 

その必死な姿が切なく、せめて不穏状態が続かないようにと、時間の許す限り話を聞き、会話することに努めた。

 

傍に居ることが難しい時は、不安そうに周りを見渡すツタヨさんの目線を捉えたところで笑顔を見せると、ツタヨさんは小さく頷き、少しばかり落ち着いた様子を見せた。

 

転院先で穏やかな時間を過ごされているだろうか。

 

ツタヨさんと過ごしたその時間は、私にとって掛けがえのない思い出となっている。

 

 

※文中のお名前は仮名です。

 

 

アラフィフ、今日もそろりと生きてます。