11年前の冬。

 

手術を前に担当医師から受けた幾つかの投薬の説明。

 

その一つが、プロポフォールだった。

 

プロポフォールとは、鎮静目的で静脈投与される麻酔薬で、即効性がある。

 

心配そうな表情の両親をよそに、笑顔で「じゃ、行ってくるわ」と言い、私は手術室へ入って行った。

 

それが最後の会話になった時のことを考え、❝笑顔で❞と決めていたのだ。

 

薬の投与が始まる。

 

そして数秒の激痛のあと、恍惚とも言えるほどの快感を覚えた。

 

そのあとの記憶は、ない。

 

血管へ入って行くあの感覚を、そして、あの快感を、私は今でもはっきりと覚えている。

 

マイケル・ジャクソンが「ミルク」と呼んでいたというプロポフォール。

 

その「ミルク」が彼の死因の1つだとされているが、何となくではあるが、彼が危険な「ミルク」を求めた理由が解るような気がした。

 

彼は決して死を望んでいたわけではない。

 

ただ一時、苦痛から逃れたかったのだ。

 

「ミルク」があれば、数秒で意識がなくなる。

 

痛みを伴うけれど、あとに続くあの快感はクセになるかも知れない。

 

快感を以って意識がなくなる経験をした私には、そう思えるのだ。

 

 

アラフィフ、今日もそろりと生きてます。