10代の頃の私は頻繁に金縛りにあっていた。

 

あまりに頻繁にあっていたため、金縛りにあう機会がなくなる最後の方は、金縛りが始まると早々に抗うことを放棄していた。

 

そんなある日のこと。

 

隣町まで自転車で出かけた帰り、まだ遠くに見えている踏切の手前に、一目で警察関係者と分かる装いの人たちが居ることに気がついた。

 

目線を逸らした先にはワゴンタイプの警察車両が停まっている。

 

事件か、事故か。

 

避けて通るには遠回りになり過ぎる。

 

既に日が暮れかけていたこともあり、そのまま踏切を超えようとした時、遮断機の手前に揃えて置かれた男性の革靴が、目に入った。

 

飛び込みでもあったのか?こんな場面に出くわすなんてツイていない。

 

モヤモヤした嫌な感覚を抱きながら家路についたのだが、帰宅する頃には、すっかり忘れていた。

 

夜、布団に潜り込み眠りにつく。

 

どれくらい時間が経っただろうか、突然、電車の走る音が聞こえ始めた。

 

自宅の近くに線路は無い。

 

電車の走る音はどんどん大きくなる。

 

そして次の瞬間、

 

「うわぁーーー!」

 

中年男性の低い叫び声が耳元で響き、同時に私の体は動かなくなった。

 

そこで初めて、その日の夕方に目にした光景を思い出した。

 

何度も経験してきた金縛りの中でも、圧倒的に苦しかった。

 

少しの声も出ないばかりか、息が出来ないのだ。

 

私は心の中で、必死に亡き友人に助けを求めていた。

 

そして渾身の力を振り絞り、うっすらとではあるが目を開けた。

 

足元に、友人の影が在った。

 

見慣れたいつもの立ち姿…

 

(あ、〇〇)

 

彼の名前を心の中で呟くと、すーっと体が楽になり、その先の記憶は無い。

 

後日、彼のお母様に会いに、自宅へ伺った。

 

私が経験したこと、そして、彼が助けてくれたことを話すと、お母様は涙ぐみ、静かにこう言った。

 

「そう、あなたも」

 

「先日、別のお友達が来て話をしてくれたんだけど…。そのお友達のことも、あの子は助けたみたい」

 

(〇〇、そっちに行っても友達思いなんだね)

 

遺影を見ながら心の中で語りかけた。

 

堪えていた涙が溢れた。

 

 

アラフィフ、今日もそろりと生きてます。