「ナース」懐かしい響きである。
今ではすっかりお馴染みの「看護師」という呼称。
2002年の法改正により、それまで女性看護師さんを看護婦、もしくはナースと呼んでいたのだが、女性・男性共に看護師と呼称が規定されたのだった。
いきなり話が本題から逸れたが、私が、注射が大の苦手になったのは、女性看護師さんをナースと呼んでいた1990年代にまで遡る。
ある日、体調を崩した私は最寄りの大学病院へ行ったのだが、そこで何度も何度も採血をやり直す事態になったのだ。
そのナースは、まず最初に左の耳たぶをメスのような刃物でチョッチョッと切ってから、ギュウッと耳たぶを強くつまみながら採血しようとしたのだが、上手くいかない。
針を使うのかと身構えていたら刃物を持って来たので、血の気が引いた
同じ左の耳たぶで2度目の切開?!が行われ採血が試みられたのだが、また上手くいかない。
すると、そのナースは私に聞いた。
「右の耳たぶで試してみても、いいですか?」
皆さんは耳たぶを刃物で切られた経験がおありだろうか?
思わず体を縮こませるほど痛いのだ。
更に、ありったけの力で耳たぶをつままれるのだ。
身をよじらずにはいられない。
だが、採血しなければ先に進めないと言うので、仕方がない。
渋々「どうぞ」と答える。
ところが、3度目の正直、とは行かなかったのだ。
そこへ、別室から痺れを切らした様子の別のナースがやって来た。
「いつまで時間かかってるの?」
どうやら、3度も私の耳たぶを刃物で切ったナースは新人のようだ。
先輩ナースが新人ナースに指示を出す。
「もう一度、やってみて」
何だと?!
私はめまいを覚えたのと同時に腹が立って来た。
何度も失敗する新人ナースにではない、先輩ナースにだ。
(こんなに緊張した様子なのに、どうして助けてあげないんだ?また失敗したらどおすんの?)
そう心の中で思ったものの口に出すことは出来ず、4度目の耳たぶ切開となったのだが、それも上手く行かなかった。
(これ以上、痛い思いをするのは嫌)
折れた心を立て直そうとしている私の様子に気づくことなく、その先輩ナースは自分がやると言って、私に腕を出すように指示した。
そこからは早いのなんの!
「これ以上、耳たぶは切れないから」と言って、注射器を持って来て、サッと消毒してブスッと刺してキューッと一気に血を抜いて去って行った。
その時の私には、その先輩ナースの行為がとても乱暴に思えたのだ。
それからだ、注射が大の苦手になったのは
注射器1本分もの血を、耳たぶから採ろうとしていたのかと思うと、更に具合が悪くなった。
やっとの思いで拷問部屋(処置室)を出て、トイレの鏡で両耳を確認してみた。
両方の耳たぶに、それぞれ2つずつ×印が刻まれていた。
「頑張ったね、わたし」
私は鏡に映るわたしに労いの言葉を掛けたのだった。
アラフィフ、今日もそろりと生きてます。