20代後半、派遣された職場で秘書として働くことになったのだが、そこで課せられた業務内容が面白かったのでお話しようと思う。

 

大きくは3つあり、業務の進捗状況の確認、海外本部への報告、そして「エンジニアへの優しい声掛け」だった。

 

上司からの指示は、進捗を見て回りながらエンジニア一人一人に何か一言、声を掛けていくというものだった。そして注意点として、皆に平等に声を掛けることだった。

 

さて、業務に就いたものの、実際のところはエンジニアは秒単位で仕事を進めなければならず、その時の様子を見て声掛けを遠慮することもあった。

 

その職場では初の秘書ということもあったのだろう、当初はぎこちなかった会話も日を追うごとに徐々に打ち解けていったように思う。ただし、打ち解け過ぎないようにと、気をつけてはいた。

 

とは言うものの、私は秘書という役割に馴染めないでいた。

 

どういうわけか、秘書は上司のものといった誤ったイメージを持たれ、彼らとの距離をとても感じていたのだ。

 

上司に遠慮して、彼らの多くは自ら私たちに話掛けることは、ほぼなかった。

 

エンジニアの中には、こちらから声掛けするとドギマギして言葉が上手く出て来なくなる人もいたため、私が緊張されるような人間ではないことを分かってもらうため、とにかく笑顔で❝いつもと変わらず❞声掛けを続けていた。

 

気づけば私の呼び名は「秘書さん」から「セクレタリー」に変わっていた。

 

(セクレタリーとは秘書の英訳だ)

 

「セックレタリー、おはよう」「仕事、大変そうだね、セックレタリー」といった具合だ。

 

からかい半分、愛嬌半分といったところだろうか。

 

それで、良いのだ。

 

派遣最終日が近づいたある日、ドギマギして言葉が上手く出て来なくなってしまっていたエンジニアから手紙を受け取った。その時も、心臓の鼓動がこちらに聞こえるのではないかと思うほど緊張されていて、その姿に思わずキュンとしたことは、良い思い出だ。

 

 

アラフィフ、今日もそろりと生きてます。