私が子供の頃は高度経済成長期であり、何やら社会にすごく希望があって、年々生活も良くなり、社会も便利になり、なんとも未来は明るく感じたものでした。

しかし、今から考えれば、公害は酷いし、働き方なんてまっくろけのブラックだし、今よりもいじめだって深刻だし、学校の中で体罰だってありえないほどひどいものだったし、何よりも一人ひとりの個人の人間性を尊重されていたとはあまり思えない社会でした。

それを思えば、現在の社会はとても良い社会です。

もちろん、大人から見れば、

「いまどきの若者は」

と言うような、過去を美化した気持ちも強いかもしれません。　

それに、様々な価値観が次から次えと変化していくことが、過去の価値観で育った人間にとっては、結構苦痛なことなのかもしれません。

気がつけば、大学入試の世界もすごく大きく変わっています。

もちろん昔と同じように、一般入試もありますが、いわゆる学校推薦型や総合型選抜といった入試が、定員の多くを占めるようになり、既に私立大学全体では、大学にどの受験方法で入学したかにおいて、一般入試組は50%を切っています。

しかし、残念ながら、総合型選抜の価値観を、一般入試の価値観で捉える人も少なくありません。

すると、このようなことになります。

「偏差値が低くても総合型だと受かるかもしれないぞ」

これは、総合型選抜の方式を、従来の一般入試の価値観で捉えたものです。

そもそも、総合型は偏差値や学力の上下で合否を出しているわけではありません。

総合型とは、受験生のそれぞれの「個性」と大学のマッチングをしているのです。

例を出しましょう。

皆さんが大学の先生だとして、総合型の合否を判定しなければならない立場だとします。

合格枠はあと1枠です。

そこに野球の大谷翔平さんと、将棋の藤井聡太さんが受けてきたとします。

皆さんはどちらを合格にしますか？

これってすごく困りますよね。

どちらを選ぶにせよ、比べる基準が違うので、どちらかを選ぶのが自分に極めて困難だからです。

そうなると、大谷翔平と答えた人は、一体何を基準に大谷翔平を選んだのでしょうか？

きっとそれは「好み」ですし、野球に全く興味がなく、将棋が大好きな人にとっては、藤井聡太さんを選ぶでしょう。

つまり、総合型とはこういうことです。

自分にとっては、占いはるかに偏差値的に高い大学があるとします。

一般入試であれば、受験するだけ無駄なのかもしれません。

しかし、総合型は違います。

あなたの「個性」を大学が評価してくれるかもしれないのです。

もちろん、その「個性」とは、甲子園で優勝するとか、数学オリンピックで金メダルを持っているとか、英検が1級であるとかといったような数字で表せるような履歴的なものばかりではありません。

自分の夢だって「個性」だし、各自の生き方や属性だって「個性」だし、自分が夢中になっている好きなことだって「個性」です。

後は、その自分の「個性」と大学のあり方のマッチングであり、その「個性」に対し大学から「いいね」をもらえることを合格といいます。

なんだかそんなの不公平な入試になっちゃうじゃないかと思われる方もいるかもしれません。

しかし、何よりも公平さを趣旨とする入試とは一般入試のことを指します。

何のために総合型選抜を実施しているのか？

それは、一般入試とは、明らかに異なった価値観の入試を行うことによって、大学の中に「個性」を求めているからです。

いい時代になったなと思います。

例えば、LGBTの高校生がその自分の

「個性」を評価してもらい、大学に行ける時代なのです。

人のために、ボランティアが趣味である高校生がその自分の「個性」を評価してもらい、大学に行ける時代なのです。

趣味で鉄道の写真を撮ることが大好きの少年が、その「個性」を評価してもらい、大学に行ける時代なのです。

私は昭和に生まれ昭和に育ちました。

こんな暑い夏の令和の時代は、あの、涼しかった昭和の夏に比べて決して好きではありません。

でも、もし今自分が高校生だったら、間違いなく、昭和の時代ではなく、令和の時代の高校生でありたいと思います。

それはきっと、令和の時代の方が自分らしく生きることができて、なおかつ、自分が必要とされる場所を探せることができるからです。

夏休みに多くの受験生が総合型選抜での受験を考えるかと思います。

もちろん受験ですから、合格することが大切です。

でも、それ以上に自分の「個性」を大切にして、自分らしく、成長できる大学と出会い、そこで精一杯自分の「個性」を主張して、大学に進学していってほしいと思います。

そんなとてつもなく暑い令和の夏を、各自の「個性」で良い夏にしてください。

個性を評価される入試と令和の夏