嵯峨野の夢 その18 | これでも元私立高校教員

これでも元私立高校教員

30年以上の教員指導を通じて、未来を担う子供たち、また大人の思考などをテーマに書き綴っています。
日本史と小論文の塾を主宰し、小学生から大学生、院生、保護者の指導をしています。

京都でのすき焼きの歴史はいつから始まったのだろうか。そんなことをいきなり聞かれてしまった。

 

(やばい、、、)

 

こういった時に教員の悪い癖で、どうにも知らないと言う言葉を口にすることができず、何か適当な説明をしてしまった。

知ったかぶりは後悔が残る。

 

すき焼きを食べている最中にずっとそのことが心に残っていた。

 

「すき焼きの歴史は宿題にしてもらってもいいですか「

 

すき焼きを食べるとそんな風に伝えた。

もっとも彼女はそういった些細なことを気にすることなく

 

「はい、楽しみにしていますね。

 

笑顔で答えてくれた。

 

楽しい時間が終わりに近づいていた太時計を見るとすでに10時近い。

 

「もうそろそろ送って行きましょうか」

 

「お願いしたいですけどお帰りが遅くならないですか」

 

最後の最後まで心配りを忘れない天女さんであった

 

「もしよかったら連絡先を交換させていただいてもいいですか」

 

この時代にスマホどころか携帯電話もない。

家に備え付けられていた電話だけが連絡先だが、それすらまだまだ黒電話の時代で、テレビドラマのなどに時々登場する白いプッシュホンの電話が、やけにをおしゃれに見えた時代だった。

 

「もちろんお願いします。私にも先生の連絡先を教えてくださいね」

 

こうして2人は電話番号を交換し、天女さんは車から降りた。

 

「お気をつけてお帰り下さい。本当にありがとうございました」

 

窓を開けた助手席の向こうから天女さんは丁寧にお辞儀をした。

 

車が走りだしてふとバックミラーを見る。

すると天女さんは嬉しそうな笑顔で手を振っていた。

 

帰りの車の中はご機嫌だった。

大好きだったサザンオールスターズの曲をカセットテープでかけながら、一緒になって歌いながら帰った。

いつもだと京都からの帰り道はそれなりに疲労感があるのだが、人の気持ちと言うものは不思議なもので、であっという間に名古屋に着いた。

 

時間は既に夜中の1時だった。

一人暮らしのアパートであるマンションのドアを開ける。うらの部屋の中は暗く静かだクズ男の木手を洗っていると、

 

リリリリリン

 

けたたましく黒電話の音が鳴った。

 

(続く)

 

✴︎この話はフィクションです。