京都でのすき焼きの歴史はいつから始まったのだろうか。そんなことをいきなり聞かれてしまった。
(やばい、、、)
こういった時に教員の悪い癖で、どうにも知らないと言う言葉を口にすることができず、何か適当な説明をしてしまった。
知ったかぶりは後悔が残る。
すき焼きを食べている最中にずっとそのことが心に残っていた。
「すき焼きの歴史は宿題にしてもらってもいいですか「
すき焼きを食べるとそんな風に伝えた。
もっとも彼女はそういった些細なことを気にすることなく
「はい、楽しみにしていますね。
笑顔で答えてくれた。
楽しい時間が終わりに近づいていた太時計を見るとすでに10時近い。
「もうそろそろ送って行きましょうか」
「お願いしたいですけどお帰りが遅くならないですか」
最後の最後まで心配りを忘れない天女さんであった
「もしよかったら連絡先を交換させていただいてもいいですか」
この時代にスマホどころか携帯電話もない。
家に備え付けられていた電話だけが連絡先だが、それすらまだまだ黒電話の時代で、テレビドラマのなどに時々登場する白いプッシュホンの電話が、やけにをおしゃれに見えた時代だった。
「もちろんお願いします。私にも先生の連絡先を教えてくださいね」
こうして2人は電話番号を交換し、天女さんは車から降りた。
「お気をつけてお帰り下さい。本当にありがとうございました」
窓を開けた助手席の向こうから天女さんは丁寧にお辞儀をした。
車が走りだしてふとバックミラーを見る。
すると天女さんは嬉しそうな笑顔で手を振っていた。
帰りの車の中はご機嫌だった。
大好きだったサザンオールスターズの曲をカセットテープでかけながら、一緒になって歌いながら帰った。
いつもだと京都からの帰り道はそれなりに疲労感があるのだが、人の気持ちと言うものは不思議なもので、であっという間に名古屋に着いた。
時間は既に夜中の1時だった。
一人暮らしのアパートであるマンションのドアを開ける。うらの部屋の中は暗く静かだクズ男の木手を洗っていると、
リリリリリン
けたたましく黒電話の音が鳴った。
(続く)
✴︎この話はフィクションです。