彼女が唐突に私に問うた
「ねぇ、何色がお好み」と。
無邪気に笑う横顔、薔薇色の頬、真っ直な髪が微かな風になびく
隣に座る彼女の左手を右手に感じる
初めて此の手を握ったとき
その冷たさに彼女は驚いた様子だった
それでも彼女はこの手を離さなかった
それから幾月かの時間が過ぎ
彼女はその冷たさに慣れたのか
この手が幾許か暖かくなったのか
二人並んで凪の海を見つめる穏やかな時間
それだけで幸せだった
石畳の坂道を下り
此処へ来るのも幾度目の事であろうか
白い砂の小さな海岸
他に来る人もない
此処でこうして並んで時を過ごすのも
幾度目であろうか
何処迄も続く海の青。
果てし無く広がる空の青。
光り輝き透き通る色
砂に落ちる2人分の影に目を落とし
私は青が好きだと答えた
彼女は小さく頷き
ほんの僅か時を置いて
「そう」とだけ小さく答え
また遠くを見つめる
微かな潮騒と遠くに鳴く海鳥
唯々穏やかで、暖かな静寂
再びの沈黙の中
あどけなさの残る横顔は微かに微笑んでいるように見えた
「この景色は永遠だよ」
私は小さく付け加えた
この幸福な時間が何時までも続くようにと
心の中で私は祈った
彼女もまたそう願ったのであろうか
重ねていた手を細い指でそっと握った
それから幾時かが過ぎ
暮れなずみ、一層輝きを増す水面
2人分の足跡だけが砂浜に残った
何時しか風がさらおうとも
この記憶だけは純粋なまま
屹度今もあの場所に
