私は買ってきた本をひたすら読んでいた。


それはさくらももこさんのエッセイだった。



書かれている言葉が私の想像を掻き立てて、

涙が出るほどおかしかった。


久々に笑ったせいで頬の筋肉が痙攣した。


お腹もすぐに筋肉痛になって、

私はびっくりした。


毎日毎日、何度も何度も読み返して、

笑った。


笑うとなんだか身体にやる気

がみなぎってくる気がした。




なんとなく、いつもの天井を見てると



いつでも死ねるんだから

やりたいことをやろう。



と思った。

まだ幼くて命の重さを理解してないから

こそ、そう思えた。





私はまずなまりきった体を鍛えなければ

と思い、腹筋や腕立て伏せや母に買って

もらった雑誌に載っていたエクササイズを

し始めた。


早く起きて日光浴をしたり、裏庭で

自転車漕ぎをした。



母に目がよく見えないから、眼科に行って

コンタクトレンズを買いたいと言うと、

いいよと言ってくれた。


それから、お年玉を持って美容院に行って

髪を切った。


次々とやりたいことをした。



母は、反対したり文句を

言ったりはしなかったが、

無関心そうだった。



部屋に閉じこもっていた娘が急に活動し

だしても、


どうしたの?


とか


なにかあったの?


とは聞かなかった。

だから話さなかった。




本当は…


本のここがおもしろかったんだ。

とか

笑ったら頬が痙攣したんだ。

とか、


私の気持ちを少しだけでも

共有して欲しかった。



母にも読んでみて欲しいな…と思ったが、

母は本を読まない人だから無理だと諦めた。



母の頭の中は、

兄が高校を辞めたことで

一杯だった。




兄は数ヶ月前に高校でウォークマンを

盗まれてしまった。

でも、ウォークマンは学校に持ってくる

ことは校則違反だから、犯人は

探さないと教師に言われたようだ。



兄は、


盗んだ人が悪いのに、なぜ

先生達は取り合ってくれ

ないんだ!


人の物を盗むような生徒が

いて、それを黙認する教師

のいる高校になんて

行きたくないんだ!



と怒り叫んでいた。




母は、少し呆れたように


新しい物を買えばいい

でしょ?


と兄に言った。


そんな問題じゃない!

誰にも俺の気持ちは

伝わらない!


と兄は泣いていた。




私は兄の言っていることは、間違っていない

と思った。


だからと言って、兄になんて言ったらいいか

なんてわからなかった。


誰かが、兄の話を聞いてくれたらいいのに。

父や母じゃなくて、兄に寄り添える誰か

がいたら、よかったのにと思った。



その後母は、すぐに

兄が通える新しい高校を探し始めた。




兄のことは最優先で動くんだな。

と少し羨ましく思ったけど、


この状態で、新しい高校に行っても、兄は

辛いんだろうなと同情した。


両親は兄を大学に進学させるつもりなのかも

しれないと思った。


私から見て、兄の知力は小学校低学年ほど

だった。


その兄を大学に進学させたいのか…

と信じられない気持ちだった。



兄が望んでいるとは

思えなかった。


ひたすらに兄の生きる光を

消そうとしている

ように見えた。





でも何も言えなかった。




不登校の私に言う資格なんてない

と思った。