病院に行った帰り道、母は本屋に寄ってくれた。


見たい本もほしい本もなかったが、大きな本屋の綺


麗に並んだ蛍光灯を眺めながらふらふらしていた。


母は本を読まない人だ。


活字を見ると頭が痛くなるらしかった。




何もいらないの?



と言われて、


慌てて、欲しかったわけではなかった10代向けのフ


ァッション誌を手に取った。


母は買ってくれた。





私はその雑誌を抱えて、また1人きりの部屋に戻った。





雑誌をめぐるたびに、綺麗な女の子がおしゃれな服


を着て笑っている姿が眩しかった。


私は、本の特集ページに目が釘付けになった。


そこに紹介されている本が読んでみたくて居ても立


っても居られなくなった。





次の日の朝、家には誰もいなかった。


母は祖父母の所に行ったのだろうと思った。



本屋まで歩いて30分。


使うことがなかったお年玉の5千円札をポケットに


入れて小走りで行った。



平日の午前中に中学生が、私服でしかも1人で歩いているなんて。


変じゃないだろうか。


悪いことをしているんじゃないか。


母に見つかったらどうなるんだろうと思った。




ビクビクしながら本屋に入って、タイトルをぶつぶ

つ呟きながら探した。


すぐに見つかった。有名な本だった。


シリーズのエッセイを3冊買った。



女性の若い店員さんが


本のカバーを付けますか?


と聞いてくれたが、緊張すぎて聞き取れず、オドオ


ドしていた。



すると、


この本、私も読みましたよ。


と言ってくれた。




私に話しかけてくれる人がいるなんて。

 

同じ本を読みたいと思う人がいるなんて。


すごくすごく嬉しかった。





何も言えなかったけど、心が明るくなっていくのを感じた。



頭だけ下げて、店を出て、走った。



ものすごく体が軽くなった気がした。



頭の中がすっきりして、もやが晴れていくような気がした。



行きと変わらない景色なのに、輝いているように見えた。





走って走って、家に着いた。


まだ母は帰ってきてなかった。


汗がこめかみから頬をつたって床に落ちた。


久しぶりに汗をかいた。



あぁ、生きているんだ、私、

と少し笑った。





しばらくして玄関から物音がした。


母が帰ってきた。


兄の怒鳴り声が聞こえた。

そして、母と兄の言い争いが続いた。




兄が高校を

辞めた 

らしかった。



その手続きに母は兄の高校に行っていたようだ。






また、目の前が暗くなった。



私は買ってきた本達を静かに抱きしめた。