兄が小学校を卒業していくと、学校生活は一気に平和になった。

私は苛々しなくなった。





中学生になった兄は相変わらずいじめられていた。

時々殴られて、腫れた顔をしていた。





母が泣いていた。

いじめる奴は

どんな理由があろうと悪だ

と母が言っていて、



 

その通りだと思った。





だけど、全て見て見ぬふりをした。



兄の暗い顔も腫れた顔も母の泣いた顔も全て無視した。






ある日、英語の習い事に行くと、ノートに蛍光ペンで

バカ

と書かれているのを見つけた。

すぐに兄だとわかった。 

猛烈に腹が立った。




なんて嫌なやつなんだろう…

母の前ではしおらしくしているくせに…

学校ではうつむいて何も喋らないくせに…





私はやり返しをしてやろうと思って、数年振りに兄の部屋をのぞいた。

兄とはほとんど話していなかったし、部屋にも近づいていなかった。





床に物が沢山あった。

でもそれらはきちんと並んでいた。

兄なりのルールが散りばめられた部屋だった。




壁に1枚だけ小さな表彰状がピンで留められていた。




それは小学校の漢字大会の表彰状だった。

計算大会と漢字大会が毎学期ごとにあって、成績優秀者に贈られる小さな表彰状。

私は20枚くらいあったから、机の引き出しにしまっていた。



1年生の1学期にもらった物だった。



あの頃の兄の誇らしげな声が聞こえた。



漢字は得意なんだ。

いっぱい練習したら覚えられるよ。

小学生になったら教えてやるよ。







それからずっと飾っていたんだ。


兄が小学校で

もらえた唯一の光なんだ。







途端に涙が溢れてきた。






もうどうしたらいいんだよ…

どうしたら救われるの…


誰か教えてください…


私にはなにもできないよ。

お兄ちゃん、ごめんなさい。