日に日に兄はイライラするようになった。
その理由は幼い私にもわかった。
私がいるからだ。
私が勝子先生の塾にいることが兄は嫌なんだ。
私がいつも1番だった。
短文の点数も音読の点数も暗記も。
全部1番だった。
でも、私は学校のクラスでは全然1番じゃない。
もっと頭のいい子はいた。
ゆいちゃんやかよちゃんが居たら、その子達が1番だろうなと思っていた。
ただ、その子達はここには来ないだろう。
兄は塾に行く日になるとなにかと母に文句をつけたり、助手席のダッシュボードを蹴ったりした。
母は言った。
兄は頑張っているからね。
疲れたんだよね。
そうなのかもしれないと思った。
でも…
私だって行っている。
兄は塾しかないかもしれないが、私はピアノもバレエも英語にも行っている。
塾に行くせいで練習だって宿題だって時間がなくなる。
行きたくもないのに文句ひとつ言わず、兄のために行っているのは私だ。
ねぇ、母よ。
頑張っているのは誰?
疲れているのは誰?
私はここで1番になりたいわけじゃない。
音読も短文も馬鹿みたいで全部嫌いだ。
勝子先生も薄暗い勝子先生の家も嫌いだ。
くね男もくね男母も早口男も姉妹も嫌い。
それでも…
それでも行ってる…
静かに何も言わずに。
私の中にどんどん黒い何かが膨らんでいくのがわかった。
それが何かはわからなかったけど。