「パナマ文書」が一時、話題になった。あのような文書があること自体は不思議でも何でもない。同様の記録は他にもたくさんある。ただ、法律事務所から流出するというのは珍しい。それだけのことである。


これはあまり日本で言われないけれど、パナマを含めた地域は、第二次大戦中に国籍が変わっている。1940年にダンケルクの撤退があり、ナチス・ドイツがフランスを占領した。ヨーロッパの大西洋側がドイツの制圧下に入ると、ドイツの潜水艦作戦が極めて活発になった。潜水艦に対抗するための戦法といえば、護送船団しかない。ヨーロッパで唯一、ドイツと戦い続けたイギリスは、護送船団で肝心要の駆逐艦が不足していた。駆逐艦を作ったのでは間に合わない。幸いに、アメリカが大量の駆逐艦を持っていた。ただし、第一次大戦中にアメリカ海軍が量産したもので、当時はボロ船扱いの軍艦だった。


それでも、イギリスのチャーチル首相はアメリカのルーズベルト大統領に、「五十隻の老朽駆逐艦を譲ってもらいたい」とお願いした。ルーズベルトはそれを受け容れたが、駆逐艦五十隻の代価として、今のバハマからケイマンあたりのイギリス領の島を取り上げた。したがって、イギリスの法制が定着していた地域に、アメリカの法制が入ってきた。


英米は裁判のやり方でもいろいろと違いがあるから、高レベルで資料を整備し、証拠を収集しないと裁判で通らない。だから、パナマを含めて、他の地域よりも司法関係の書類は整備されているし、内容も充実している。


その「パナマ文書」にアメリカの企業や人間があまり出てこないのは、外国のタックスヘイブンなど必要ないからだ。国内にタックスヘイブンがいくらでもある。例えばネバダ州は所得税も法人税もほとんどかからない。わずかな税金を納めてくれる人間を自分の州に移住させたい。それがネバダ州政府の方針である。これは昨日、今日のことではなく、ずっと前からそうである。それから、フロリダ州は相続税が低い。だから、日本人の金持ちが大勢来ている。


隣国のカナダなどは相続税がなかった。それを当て込み、トロントで再開発を手掛けたのが香港の李嘉誠だ。高層マンションをつくり、一区画八百万カナダドルで売り出した。なぜ八百万ドルかというと、カナダで八百万ドル以上の不動産や金融資産を持っていることが証明できれば、カナダ国籍が買えるからだ (現在は廃止になった) 。もっとも、三年前に李嘉誠はトロントの再開発の仕事をやめた。買うに値する人は、みんな相手になった。これ以上はない。そういう判断である。


李嘉誠の再開発に融資したトロントのランドバンキングは東京に支店を置き、日本の資産家を相手にいろいろとやっている。私は取材に行って話を聞いたが、節税を含めたさまざまなシステムは今でも生きている。


今後、パナマ文書の影響が出るのは新興国と共産国である。その一つが中国だ。これは大変だろう。習近平はどうするのかと思う。

インターネットで「パナマ」という言葉にアクセスできないなど、必死になって隠しているらしいが、どうにもならない。習近平の情報統制を受けない香港から情報は入ってくるのだ。そして、中国人は携帯電話で情報を得る。中国の携帯電話の普及台数は五億台で世界一だが、五億台の携帯電話をチェックする能力など、中国政府にはない。コントロールできるのはインターネットだけであり、香港経由で入ってくる情報が携帯電話の通信網で広がることを止められない。だから中国人は、習近平の娘婿が何をしているか、みんな知っている。