1年の中で、最も昼が長くなる「夏至」。
今年は6月21日でした。
東洋の陰陽思想において、夏至は「陽のエネルギーが最大(極限)に達する日」です。
そして、極まった瞬間から、今度は「陰」のエネルギーが静かに生まれ始めます(これを「一陰生ず」と呼びます)。
夏至から七夕までの期間は、まさに「外へ向かう爆発的なエネルギー」から「内省や現実化へ向かうエネルギー」へと、大きなギアシフトが起こる移行期にあたります。
この期間は、夏至に天から降り注いだ高いエネルギーや直感を、約2週間かけて自分の内側に浸透させ、七夕という「願いを形にする節目」に向けてグラウンディング(現実化)させていく期間なんです。
この季節、境内には大きな緑の輪——「茅(ち)の輪」が作られている神社も多いですね。
「夏越の祓(なごしのはらえ)」と呼ばれるこの行事は、年のちょうど半分にあたる6月30日に、これまでの半年の穢れをリセットし、残り半年の無病息災・家内安全を祈る伝統的な行事です。
青々とした茅の輪をまたぎ、八の字を描くようにくぐり抜ける日本古来のこの行事、
ふと、母との懐かしい思い出が蘇ってきました。
一昨年、天国へと旅立った母。
いつも一所懸命、大真面目に私を気遣っていた母の姿と、忘れていた幼い日の記憶が、
茅の輪の青臭い香りと共に、一気に蘇ってきたんです。
■ お腹に巻かれた、秘密のお守り
私が生まれ育った香川県には、
5月の端午の節句に菖蒲(しょうぶ)の葉を
お風呂に入れるだけでなく、
身体に巻きつけるという古い習わしがありました。
「頭に巻くと賢くなり、お腹に巻くとお腹を壊さない」
その日の朝、母は庭から採ってきた細長い菖蒲の葉で、丸い輪っかを作ってくれました。
「はい、これで頭とお腹を守るんだよ。1日中、ずーっと巻いておくんだよ」
頭とお腹に直接巻きつけられた、青い輪っか。
母の手は、いつも温かくて。
菖蒲のツンとした力強い香りがしました。
小学生だった私は、そんなものを巻いて学校に行くのはちょっと気恥ずかしかったけれど、
母の思いを無碍にできなくて、外から見えないお腹の輪っかだけはそのままの状態で、小学校へと登校したのです。
■ 背中からはみ出ていたもの
でも、休み時間に廊下を歩いていると、
後ろから友達が笑っていました。
「おい、なんか出とるぞ!」
慌てて背中に手を回すと、嫌な予感が的中、
走り回るうちに、お腹の菖蒲がすっかり解けてしまっていました。
その菖蒲は服の裾をすり抜け、
背中からまるで緑色のしっぽのように、
だらんとはみ出していました。
「何それ、草?」
「なんでお前、お腹に草巻いとるん!?」
めちゃくちゃ恥ずかしくて、慌てて菖蒲の葉を外したけれど、
恥ずかしく思うことすら、なんとなく母に悪いような気がして、後ろめたい気持ちになったことを、今でも覚えています。
■ 形は違っても、同じ祈り
茅の輪の由来は、神話の時代にさかのぼります。
「茅の葉を腰に巻いて災難を逃れた」という物語が、この風習の原点だと言われています。
形こそ違えど、母が私のお腹に巻いてくれた菖蒲の輪っかも、まったく同じ祈りの形だったのだと、今はわかります。
我が子を邪気から守りたい。
それは千年の時を超えて続く、
お母さんたちの、静かで真剣な願いでした。
夏至は、天文学的にもエネルギーが最大に高まる大転換期です。
溜め込んできた不要な感情や、古い価値観を「手放す」のに最適なタイミングだとも言われています。
あの日のことを思い出して、最後に残ったのは、やっぱり母への感謝でした。
あの日、私の背中からはみ出ていたのは、菖蒲の葉なんかじゃありません。
小さな私の身体には収まりきらないほどの、
母からの大きな「愛」だったのです。
■ 今年も、お腹のあたりに
一昨年、母が亡くなってから、季節の行事を教えてくれる人はいなくなりました。
でも、夏至の光が降り注ぐ境内に立つと、今も確かにお腹のあたりに、あの日の温かいぬくもりを感じます。
お母さん、私は今年もこうして穢れを祓って、元気に過ごしているよ。
あの日のお守りは、今でも私の中に生きていて、これからの半年も、優しく守ってくれそうです。
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