石田明目線を戯曲風で。

【①高架下の居酒屋】

あゆみ「あの!」

          ※ドキドキした表情のふたり

          ※大きな目で瞬きもせずに石田を見つめるあゆみ

          ※開ききった瞳孔であゆみを見つめる石田

       ※心臓の音だけが空間を支配している

石田の心の声「あかん!!なに!?何を言われんの!?こわいこわいこわいーーー!!」

          ※店員が瓶ビールをテーブルにドンと置く音をきっかけに心臓の音はなりやみ居酒屋の喧騒が戻ってくる

店員「はい!おまたせ!」

石田の心の声「店員様ーーー!!!ナイスですー!危うくあの世に旅立ってしまうところでしたーーー!」

店員「テーブル席なんて初めてじゃないですか?」

石田の心の声「会話まで差し入れしてくれるんですかー!?あざーーーーーす!!!」

石田「そうっすねー。いつも1人やから」

石田の心の声「ちょっと待って!今の『いつも1人やから』をおれから引き出すために『テーブル席初めて』とか聞いてきたんちゃうん!?天才や!店員さんおれの200倍MCうまいっすー!!!ただひとつだけ言わせてもらおう」

石田「あ、でも瓶ビールまだ頼んでませんけど」

店員「あ、店からのサービスです」

石田「え?」

店員「ごゆっくりどうぞ」

          ※笑顔で去る店員

石田の心の声「さらにお祝いですかーーー!?おれが人つれて来たことがそんなにめでたいんですかー!?おれどんだけ寂しいやつやねーん」

          ※石田はビールを手酌しながら「はっ!」となる

石田の心の声「いやなにも解決してない!歯に葱が着いている可能性大なんやった!おれ歯並び悪いからなー」

          ※石田はあゆみにバレないように下向き加減で焼き鳥を見ているフリをして、舌先で歯に葱がはさまっていないかを入念にチェック

あゆみ「おいしそー」

石田の心の声「よしよしバレてないし、葱もおらへんぞー!ここから一気に立て直そう!」

石田「焼き鳥ってどうやって食べる派」

あゆみ「うーん。人と食べる時はなるべくバラバラにして分けるけど出来れば串ごといきたいタイプ!」

          ※石田は見開いた目であゆみを見て、掠れるような声で

石田「へー」

石田の心の声「まっっっっっったく一緒やん!!!せやねん、人と食べる時は合わせるよ!それは仕方なくね!でも気の知れた仲とか恋人やったらねー!?」

あゆみ「ぼんじり、このままかじっちゃっていいですか?」

石田の心の声「恋人という事でよろしいですかーーー!!?」

石田「いいよ。てか絶対このままの方が食べやすいやろ」

石田の心の声「おれたちそんな仲ちゃうやん?」

あゆみ「まじ?」

石田「まじまじ」

          ※あゆみがフッと笑う

          ※石田もあゆみにつられて笑う

          ※あゆみがぼんじりを串のまま食べ

あゆみ「うまっ!」

石田「やろ?まあおれにドヤ顔の権利はなにひとつないけど」

           ※またもや笑うあゆみ。持っていた串の持つ方を石田側に向けて置く

石田の心の声「串の持つ方をこちらに向けましたぞー!!!」

          ※石田はこの興奮を悟られないため、穏やかな笑みを見せながらビールをあゆみのグラスに注ぐ

石田の心の声「落ち着けー!落ち着けー!よし!!泡の比率は問題なし!」

          ※あゆみもクスクス笑いながらビールを石田のグラスに注ぐ

         ※石田は注がれたビールを一口飲み、さも当たり前かのような表情でぼんじりの串をひとかじりする

石田の心の声「あゆみちゃん直後のぼんじり頂きましたーーーー!!!正直、焼き鳥の味はまったくしません!!!ただわたくしは幸せの絶頂であります!!!」

          ※心の声とはうらはらに大人のしれっとしている石田。

          ※時間経過

          ※焼鳥盛り合わせはほとんど串だけになっている

          ※一口だけ残っていたハツを石田が手にとる

石田の心の声「よし!この大将から恋愛成就のハツを食べたら告白しよ。いける!絶対にいけるはずや!」

          ※石田はそんな思いを込めハツを食べる

あゆみ「石田さんの好きなタイプはどんな人?」

石田の心の声「あなたです。って言えたら楽やのになーー!!!」

石田「タイプとかあんまないねん」

石田の心の声「一目惚れがなにを言うとんねん!」

あゆみ「どういうこと?」

石田「好きな人におれなんかを好きになってもらえたらそれが幸せかなぁ」

石田の心の声「こたえになってないーーー!!!その『好きな人』の情報を聞かれとんねん!やのに『幸せかなぁ』ってなにぬかしとんねん!」

あゆみ「じゃあ、芸能人でいうと誰とかある?」

石田の心の声「ほれ見てみー。話戻されとるやないかい!なっさけない!」

石田「芸能人なら松雪泰子さん」

石田の心の声「あの着物が似合う雰囲気?あゆみちゃんも持ってるねんなー」

石田「あゆみちゃんは?」

あゆみ「イッチー(市原隼人)かな?」

石田の心の声「オワター!!!!!前触れなく急激にオワターーーー!!!1ミリもカスってないねんけどーーーー!!!」

石田「ぽいわー」

          ※石田は瓶ビールを手酌するがビールは空

石田「すみません・・・おかわり」

         ※大将が調理場で石田を見て微笑んだ

         ※石田はうまく微笑み返せない

          ※時間経過

          ※石田もあゆみも芋焼酎の水割りになっている

石田「そっか。でも家族でちゃんとぶつかれるって素敵やな」

石田の心の声「おいおいおい、さっきのイッチー終わりの手酌空振りの時がお開きにするタイミングやったんちゃうの!?いや家族大切にしてるとか聞かされたらどんどん好きになってまうやん!どうしてくれるん!?」

石田「好きじゃなかったらぶつかれへんもん。好きやからこそぶつかるねんもん」

石田の心の声「あゆみちゃんはほんまに家族のこと好きやねんなー。好きやからこそむかつくし、好きやからこそぶつかるんやわ・・・好きやからこそぶつかるか・・・好きな人にはちゃんと気持ちぶつけなあかんよな。気持ちぶつけな・・・」

          ※石田は告白する気持ちを固めるが、とてつもなくか弱い声で

石田「あゆみちゃん・・・」

          ※次の瞬間、高架下の居酒屋ならではの電車の通過音が響き渡る

付き合ってもらえませんか?」

          ※見事に声をかき消された石田

あゆみ「え?」

石田の心の声「これはやめとけってことやな。っていつもやったら思ってた。でもなんなんやろ」

石田「おれと付き合ってくれませんか?」

          ※石田が言い始めた途端、隣のグループのおじさんが皿を割り、見事にかき消される

あゆみ「え?」

          ※あゆみが笑う

          ※石田も笑う

石田の心の声「大丈夫。なんか大丈夫な気がする。だからちゃんと言おう」

石田「おれあゆみちゃんのこと好きやから付き合ってもらえませんか?」

あゆみ「まじ?」

石田「まじまじ」

あゆみ「私も。お願いします」

          ※フッと笑い合うふたりは照れながら乾杯をする

石田の心の声「な?大丈夫や言うたやろ?・・・うそーーーーーーーーん!!!えーーーーーーー!おれあゆみちゃんと付き合えるのーーー!?なに!?おれイッシーやで!!イッチーじゃないでーーー!!!」

          ※石田は芋焼酎を一気に飲み干し

石田の心の声「よし!この勢いで言うしかない!」

         ※大きなリュックからグッチャグチヤ紙袋を出す

石田「これ覚えてる?」

あゆみ「・・・この袋・・・クリスマスの時に」

石田「せやねん。実はあゆみちゃんへのプレゼントやってん」

あゆみ「え?」

石田「初めてあゆみちゃんを店の前で見た時に一目惚れしてん」

あゆみ「え?」

石田「で、その時寒そうやったからその足でプレゼント買いに行ってん」

あゆみ「え?嘘でしょ?」

石田「ほんまやねん。ひくやろ?」

あゆみ「ううん。開けてもいい?」

石田「どうぞどうぞ」

          ※あゆみが紙袋に入った箱を開けると真っ赤なブランケットが

石田「クリスマス限定のやつらしい。まあでも渡す勇気なくて」

あゆみ「・・・」

石田の心の声「まあ、一目惚れした瞬間プレゼント買いに行って店に通うやつなんか怖いよなー。ひかれてもしゃーないわ。でもおれも自分がこんな奴なんか知らんかったし、それ教えてもろただけでも感謝やわ」

          ※あゆみがブランケットを膝にかける

あゆみ「高架下の居酒屋で自前のブランケットする女むかつくー」

          ※あゆみは悪戯そうに笑う。そして

あゆみ「ありがとう。私も好きだよ」

          ※挿入歌としてウルフルズの「バンザイ」が流れる

          ※笑顔で話すふたり

         ※ふたりを見て笑顔の大将と店員

【②高架下の居酒屋の外】

石田「ごちそうさまでしたー」

店員「またおまちしてます」

          ※挨拶を交わしすぐそこの駅まで歩くふたり

         ※どちらかともなく2人は手を繋ぐ

         ※そして駅の改札前で、繋いでいた手を放し、改札に入っていくあゆみ

         ※あゆみは振り返り

あゆみ「あっくん、またね」




                    完