石田明目線を戯曲風で。


【①横浜のホテル】

          ※ホテルの床で大の字になり寝ている石田

          ※やけ酒の名残りのロング缶があちらこちらに転がっている

          ※携帯電話の目覚ましがなり目を覚ます石田

石田「ん、んん~」

          ※石田は目覚ましアラームを止めて、メールが来ていないかを見る

         ※メールは誰からも来ていない

石田「終了ーーーーっ!」

          ※ダウンタウン浜田さんばりの「終了」がホテルにこだました。

【②ホテルのバスルーム】

          ※石田は湯をためたバスタブに浸かりながら、自問自答を繰り返す

石田の心の声「なんでメール返ってこーへんの?そんなに飯誘うだけで嫌われる?それやったらアドレス教えへんかったらいいやん!なんで教えたん?訳分からんわ。いや待てよ。もしかしたら打ち上げの邪魔したらあかんと思って、気を使ったんかも!」

           ※携帯電話で時間を見ると昼の11時を回っている

石田の心の声「やとしたらもう連絡来てるやろ!"昨日は打ち上げ楽しめましたか"的なやつ来てるやろ!どうなってんねーーん!!!」

          ※石田は腹が立ち携帯電話をバスタブに投げ入れる

          ※その瞬間、慌てて拾い上げる

石田「やっば!落ち着け!落ち着けおれ!!」

【③マンションの部屋のリビング】

          ※時計は23時55分を指している

          ※石田は抜け殻のように部屋の角で体育座りをしている

梶剛「おい、大丈夫か」

石田「・・・」

梶剛「・・・なんかメール出来ひん理由があるんちゃう?」

石田「り、ゆ、う?なに?りゆうって」

梶剛「いや、ほら、彼氏がどうのこうの言うてたやん」

石田「傷口に柚子胡椒練り込まんといて」

梶剛「ちがうやん。その彼氏とカタをつけてから連絡しようと思ってるんちゃう?ほら、彼氏おるのに違う男とご飯行くのってあかんと思ってるねんて」

石田「梶。言っとくけど傷口にガムシロップ塗っても傷は治らんからな」

梶剛「なんやおまえ。あ!あれちゃう!?単独ライブ見て手の届かん存在や思ったんちゃう?」

石田「手の届かん存在がこんなにへこむ訳ないやろ」

梶剛「・・・ほな、携帯電話止められてるとかちゃう?知らんけど」

石田「・・・」

梶剛「まあ、次に動きだそ・・・」

石田「その可能性あるな」

梶剛「え?」

石田「携帯電話が止められてる可能性」

梶剛「え?お、おう、あるな!」

石田「よし、店行ってくるわ」

梶剛「まてまて。もう閉店やろ」

          ※時計は0時になっている

石田「ほんまやな。出待ちしてくるわ」

梶剛「やめとけ。ストーカーみたいなるから」

石田「あかん?」

梶剛「明日行ってこい。もしも携帯電話止められてたらすぐ言ってくるから」

石田「そやな。そうしよ!梶、ありがとうな」

梶剛「お、おう」

          ※石田は梶剛の手をとり握手

梶剛の心の声「やば〜。大丈夫かなーこいつ」

【④居酒屋】

          ※翌日、石田が居酒屋のドアをドキドキしながら開けるとあゆみが振り返り

あゆみ「いらっしゃいませ!あっ!」

石田「あっ!どうも」

石田の心の声「来い!来い!"携帯電話止められてるんです"来い!」

あゆみ「この間は楽しかったです!」

石田「こ、こちらこそありがとうございました。なんかすみません」

石田の心の声「そんな社交辞令いいから!来い!"携帯電話止められてる"カモーン!」

            ※なにもなかったように席に案内される石田

           ※石田はビールを頼み、とりあえずパソコンを開く

石田の心の声「ん?携帯電話は止められてないんか?やとしてもなんでメール返してないんかの話は普通するやろ!え?もしかして、あのメールのやりとりは夢やったん!?え?妄想と現実が区別つかんくなってるやつ!?」


          ※石田が心の中で迷子になっていると、想像をはるかに超えるテンションであゆみママが話しかけてくる

ママ「こんばんはー!この間のライブ楽しかったです!すっごい面白かったです!いやーすごいです!本当にすごーーーーい!!」

          ※石田の耳には届いていない

          ※あゆみは他のテーブルの客と話し始めた

石田の心の声「あれ?あゆみちゃん?もしかしておれのことさけてる!?やんね!?絶対そうやんね!?」

          ※ママがとてつもない勢いでライブの感想を言ってくれている

          ※嬉しい事なのだが、石田としては少し黙って欲しい

          ※黙らしたい一心で石田は突然のカミングアウトを始める

石田「去年、婚約破棄されまして」

ママ「え?」

石田の心の声「おい、おれ何言うてんねん!なんであゆみちゃんのママに元カノの話を始めるねん。おい、やめろて。やめろて!!」

          ※石田は自分を止める事が出来ずに元カノの話を一部始終コースで提供している

          ※あゆみが賄いを持って裏の方に入っていったのが見えた

          ※石田は心と体が完全に別居したように、自分がコントロール出来ずに元カノの話をし終えてしまった

ママ「そうだったんですね」

          ※想像を超えるハイテンションだったママがお通夜のテンションまで引き下げられている

ママ「おかわり入れますね」

          ※ママがおかわりを入れてくれ、その流れであゆみが賄いを食べている裏へと入っていった

石田の心の声「オワタ。今度こそマジでオワタ。今、裏では興味無い男の婚約破棄話の伝言ゲームが開催されてるはず!オワターーーーーー!!!」

石田「マスター、お勘定」

【⑤公園】

          ※石田は冬の公園のベンチで缶ビールを飲んでいる

石田「・・・」

石田の心の声「・・・」

          ※なにも考えていないのにあゆみにメールを打っていた石田

石田のメール「今日、電話出来ますか?」

          ※送信ボタンを押してしまった瞬間、我に返り慌てて

石田の心の声「おいおいおい!なにしてんねん。送信すな!送信すな!電波悪くなれ!!」

          ※電波を悪くしたい一心で砂場に携帯電話を埋める石田

石田「あーーーーーーー!!!」

          ※時間経過

          ※砂の山を眺める石田

          ※砂の山が微かに揺れる

石田の心の声「ん?え?もしかしてメール返ってきた?ははは。そんな訳ないか。ま、でも一応見とくか」

          ※石田は砂の山を崩し埋もれた携帯電話を取り出しメールを開く

石田「あゆみちゃんからやん!」

          ※思わず声が出てしまった石田

          ※通りを通りかかったお巡りさんに怪しい目で見られる石田

         ※お巡りさんが通り過ぎるまで冷静を装ってメールを見る

あゆみのメール「はい。今まだ出先なのですが何時頃大丈夫ですか?」

石田の心の声「キターーーー!!まさかの電話できる展開ーーーー!!でかした無意識のおれ!!でかしたメールを送った無意識のおれ!でかしたバリ3の電波ーーーー!!!・・・よし!一旦冷静になろう。深呼吸しよ深呼吸」

          ※石田は公園中の酸素を吸い尽くすように深呼吸をしてからメールをうつ

石田のメール「ぼくも出先なんで23時頃でどうですか?時間分かれば僕からかけます」

あゆみのメール「わかりました。23時に待っています」

          ※声を殺して大喜びする石田は意味不明にジャングルジムに登った

         ※するとさっき通り過ぎたはずのお巡りさんが戻ってきていて目か合う

         ※石田はジャングルジムの上で、なにもなかったかのように足を組み冷静を装う


石田のナレーション「23時までの時間をどう過ごしたのかはあまり覚えていない」

【⑥マンションの部屋のリビング】

          ※石田がノートにペンを走らせている

石田のナレーション「覚えているのは、ただダッシュで家に帰り"電話で話したいこと"を箇条書きにした事だけ。話が尽きるのが怖くて」

         ※時計が23時をさした瞬間に石田が電話をかける

         ※楽しそうな石田

         ※話しながら歩き公園に舞い戻ってしまっている
 
石田のナレーション「でもその"箇条書き"は見られることなく夢のような時間は朝4時まで続いたのだった」





                 つづく