↓過去の記事はこちら↓

第1話

第2話

第3話

第4話

第5話

第6話

 

---------これまでのあらすじ-----------

学校から帰って来るなり、
今度学校で友達と
コントをやることになったので
「コントの作り方を教えて」
と言う小2の娘…

本番は金曜日。

お風呂の中で作った
自信のネタをひっさげ
学校へ行った娘だったが…


-----前回のつづき(長編)------


がっくり肩を落として
帰宅した娘。

小2にはまだ重すぎる
ランドセルを降ろすのを
手伝いながら娘に
出来るだけ優しく聞いた。

「どうしたの?」

「・・・」


話したくないんだね。

まあ、お母さんには
なんとなくわかるよ。

きっと
相方のAちゃんが
娘のネタを
気に入ってくれなかった

意見の違いで
ケンカしたか…


でも娘よ、
案ずるな。


コンビなんだから
そんな時もあるよ。

それくらい
お互い真剣に
必死にやってるって
ことなんだから。


お母さんにはわかる。

これからも
つっこみのAちゃんは
時には
あなたの書いた台本と
違うつっこみの言葉で
つっこみ、

それをあなたが指摘すると
「えっ
 でもこっちの方が良くない?
 言葉のチョイス的に」

『ネタ書くのはそっちかも
 しらんけど
 つっこみのセンスは我にあり!
 我こそつっこみ神なーるぞー!』
とでも言いたげな生意気な顔で
髪の毛いじりながら
楽屋の鏡ごしに言って来たり、

時には
またも台本にはない
しかも小さいボケに対して
不必要なおもしろワードを
乗せまくった
ハイテンションな長いだけの
独りよがりつっこみを
してきて、
あなたが
「ちょ、ごめんやけど
 そのつっこみやと
 ボケ死ぬからさー」
と指摘するも
「えっ
 でもおもしろくない?
 このつっこみ。
 どっちがおもろい?」
と、
見当違いの理論で
やり込めようとしてきて
その場はお互い我慢するが
やがて数か月後、
下北沢の居酒屋チェーンの座敷で
髪の毛引っ張り合いの
ケンカをして、
後輩芸人に止められた後
その後輩に
「なんか…悲しいっすわ!」

泣かれることもあるでしょう。

あぁ、目に浮かぶ。

でもね、それは
つっこみさんが
すごく自信を持っていて
乗りに乗ってる
証拠でもあるので、
そういう時はコンビとして
グングン伸びる時でもあるから
そこはうまいこと
自信を持たせたまま…



「Aちゃん、やめるって」


えっ!!


お母さんの
思ってたのと全然違う!

えっ!

ここに来て
まさかの解散?

娘、8歳にして
もうコンビ組んで
もう解散?

ネタ合わせすら
一回もせずに
解散!?


早い早い、
色々早すぎる!


「あと…
 Sくんも
 やっぱやらない、って」


なんだと!!


バンビーノのネタを
そのままやることへの
よくわからん執着心で
お馴染みの、
揺るぎない男Sくんが!?

机をステージに
紡木たくワールドを
展開するんじゃなかったのか!


「みんな、
 休み時間遊びたいみたい…」


そりゃそうだ。
そりゃそう!
まだ8歳だもん。

30過ぎの大人でも
時にはしんどい
ネタ合わせを、
小2が貴重な休み時間に
したいわけがない。

そりゃネタ合わせより
ドロケイやっていたいよ。

30過ぎのおっさんでも
ネタ合わせより
ポコパンやってたい
時もあるんだから。


「えっと、だからー
 一人になっちゃったから
 もうコント出来ない」

目を合わせずに言った娘。

本番金曜を目前に、
まさかの展開。


恐ろしや…

ここまでだったか
小2の
もう飽きた病!


「そっか…
 それは困ったねぇ…
 それで、
 やめる前にAちゃんには
 昨日のネタは見せたの?」

「いや、私休み時間ずっと
 忘れて遊んでたから…」


お前もかい

お前もやないかい!

休み時間ずっと遊んでるって
小堀か!

劇場の合間も楽屋で
新ネタ作りに励まんかい!

最近ネコ放り投げる携帯ゲームに
ハマってるって聞いたぞ!
なんやそのゲーム!!
今すぐスマホごと捨てろ!

とりあえず小堀には
後で電話や!!


「そっか…
 まあ遊ぶ方が楽しいよねぇ。
 それで(娘)ちゃんは
 どうしたいと思ってるの?」

「え?
 どうするって
 もう誰もいないし
 終わりだよ」

「あのね…
 キングオブコントだけが
 コントじゃないんだよ。
 世の中にはR-1という
 面白いピン芸人のね…」

「ぴんげいにんって?
 もしかして
 一人でやるの?
 無理!それは無理!
 出来ないよ!」


…だろうな!


私も娘が8歳で
皆がやらないって言ってる中
それでもピンでやり出したら
すごく尊敬はするけど
なんか怖い!

執念が!

大きくなって
自分で考えた結果
ピン芸人に
なりたいって言うなら
別だけど!

そもそもキングオブコントも
目指してなかった!


私が
何と言って励まそうか
考えていると、
娘はソファに
寝転がり両足を上げて
ニコニコしながら言った。

「あ~あ!
 せっかく作ったのにー!
 コント、
 やりたかったな~!
 プーーーッだ!」

努めて明るく言う娘を
私は黙ってヒザに乗せ
ぎゅーーっと抱きしめた。


あー誰か

誰か助けてくださーい!


「誰か…
 誰か
 一緒にやってくれる人、
 いないかなあ…!」

くやしさから、
思わず漏れ出た私の言葉。

「いないよ」

後頭部しか見えない娘が
つぶやいた。


そして

オレンジの西日に満ちた
リビングに、
ゆらりと立ち上がる、影。


クレヨンを握りしめたまま、
その影は全力で叫んだ。


「みーたん!!!」


「うぇっ!?」


言ってませんでしたが、
実は
この一連の話を
最初から最後まで
ずっと真横で
聞いていた人が一人
いました。

次女、6歳。
幼稚園の年長さんです。

長女が
今度学校でコントをやると
言い出した日も、
お風呂場でのネタ作りの時も、
ずっと横で遊びながら
黙って聞いていた
次女。

その次女が、

「みーたん!!」(自分のこと)

と叫んで
立ち上がったのです。

そして
意外過ぎる新キャラ出現に
目と口を丸くして驚く
私と長女の横に立ち、

「ねえね!(長女のこと) 
 コント
 みーたんがやってあげる!」

とものすごい大きい声で
言い放ったのです。

驚きと感動。

とにかく
ものすごい声量!

昔話だったら
木とか小屋とか
吹き飛んでるレベル!


この子ならいけるかもしれない!


この声なら、
キャパ900席
満員のNGKでも
最後列まで響き渡る声で
つっこめるかもしれない!

そして母として
妹の姉を想う気持ちに
胸がグッと熱くなった瞬間、
真顔中の真顔で言う長女。

「いや、いい」

「!」

「だってみーたん
 まだ幼稚園じゃん。
 どこでやるの?」

「!!」


『恥かかせやがって』
とでも言いたいのか、
なぜか私のことをにらみ
立ち尽くす次女。
ほぼ白目で
にらんでいる。
怖い。

こうなったら
これしかない。

(じゃあ来年)
「じゃー来年」

(小学校に)
「小学校に?」

(入ったら)
「入ったら!!」

私の耳打ち通りに
長女に言う次女。


そしてここからは
次女が自分で言った言葉。


「そしたら
 あのネタ一緒にやろうね!
 それまで
 コント、待ってて!!」


「うん…」


ついに
ここに川谷家姉妹による
コンビ結成か!




というわけで…

残念ながら
娘が作ったコントは
金曜日に
発表されることはなく、
次女の小学校入学を待つ
ことになりました。

私も
思いもよらなかった結末です。

でも
木曜の夜
寝る前に
娘はこう言いました。

「たぶんないけど~
 たぶんないけどね、
 もし、明日
 誰か一人でも
 『コントやってー』って
 言ってきたら、 
 私やるよ」




おい



小堀ーーー!!!


なんか知らんけど小堀!!

お前もっともっと
頑張れーーーーーー!!





---------------おわり--------------


*本来の本番、
 今日がその金曜日でした。

帰宅した娘に
一応どうだったか
聞いたところ

「今日コントやる日
 だってこと、
 だーーーーれも
 覚えてなかった!!
 プーーーッ!」

とのことです。

でも、
「今度、もしお楽しみ会とか
 あればまた誘ってみる!」
と、前向き!

頑張れ娘!!