駅前に新しくカフェもあるパン屋さんがオープンした。
会社の窓から見えるそこは、とてもかわいらしい佇まいだったから。
女の子たちがランチにも使えるねって楽しそうに話しているのが耳に入ってくる。
中でも、課の母親的存在、マミーこと『ベテランOL』のマユミさんはオープン初日から大絶賛だった。
「美味しかったのよ。コウヘイもコンビニパンばっか食べてないで、これ食べなさい」
そう言ってデスクに置いていったのがコロッケパンだった。
ひと口食べて、思わず目を見張る。
ポテトコロッケだと思っていたそれは、ふわりと口の中でとろけるクリームコロッケ。
思わず、まじまじと食べかけのパンを眺めて、もうひと口。
サクッとした衣と、ほんのり甘いパンが絶妙で。
なぜだかあったかい気持ちになるから。
もっと。
他のパンも食べてみたいって、そう思って。
気がついたら、自然と足が向かっていた。
閉店間際にもかかわらず笑顔で迎えてくれた彼女は、慣れてなくて・・・なんて断りながら丁寧に選んだパンを袋に詰めてくれる。
「・・・あの。コロッケパンって今日はもう?」
「あぁ。売り切れちゃいましたね。ごめんなさい」
「いえ。・・・すごく、美味しかったんで。クリームコロッケ・・・あ、会社の人のおみやげで・・・」
「ありがとうございます」
その笑顔が、昼間食べたクリームコロッケみたいにふんわりとけるような笑顔だったから。
理屈抜きで、もってかれた。
すんげ挙動不審だったんじゃないかと、今思い返しても赤面ものだ。
そして今日も、ラストオーダーギリで店に滑り込む。
ドアに手をかける一瞬は、意識しすぎていつもためらう。
それをごまかすように、勢いよく扉を開けて。
勢いよくカフェのカウンターを目指して足を運ぶ。
「おなかすいたっ!」
そうやって店の中に踏み込んだら、いつもふわりと笑顔を見せてくれる彼女がいるから。
いつものように、勢いよくドアを引きあける。
その日は。
いつもオレが座っているその席に、知らない男が座っていた。
困惑したように掴まれていた手を振りほどこうとしている彼女が、はっとして一歩後ろに下がる。
他にお客さんのいない店内は、張り詰めた空気で息苦しいほどで。
男が、小さく顔をそむけながら舌を鳴らす。
感じの悪いそいつは、彼女にだけ聞こえるように何かささやくと、お札をカウンターに置いて席を立った。
~~~続く。~~~