Get out of the gate ***6 | ○find of happiness○

○find of happiness○

日々を楽しむ。
小さなシアワセ。

そんな感じのオリジナル小説を
のんびり描いています。。。


オフィスの空気がものすごく重たい。

あれ以来、今まで以上に疲れがひどくなってきて。
自宅に戻ると泥のように眠った。
もういいんじゃないか。
だけど、もし今ここで抜けたら、この状況は更に険悪になるんじゃないだろうか。
グルグルと見えない答えにイラついて。


『見失うな』


時折、ルキの言葉がリフレインする。


そんな中、羽柴さんのサイトが完成した。
サーバーにあげたデザインを確認してもらうのは、いくらでもできるけど。
オレは羽柴さんの反応が直接見たくて、夕方伺うアポを取り付け、それ以外の仕事を整理していた。
フォルダ分けをしたデーターを保存する。


「シュウ、羽田部長がらみのやつ。まだやってるの?」


いつになく険しい顔つきで、高梨サンが側に来る。


「え?あぁもうすぐ納品ですけど」


「データ、私にちょうだい。次のプロジェクト、かなり大掛かりになりそうだから。お遊びは程ほどにして欲しいのよね」


含んだ言い方が鼻につく。


「お遊びって・・・仕事っすよね?」


「あなたがコストを無視してあそこに足を運んでいるの、判ってるのよ?」


正規のルートを踏まえるなら、足を運んだ分は上乗せするのが道理だろうと。


「まったく。シュウにまで噛みつかれるとは思ってもみなかった。嫌な役ばかり私に押し付けて・・・」


ギリッと奥歯を噛むような仕草をして、高梨サンの表情が歪む。

ニゲルガ、カチ。


「すみません、これから打合せなんで。先方に伺って、そのまま直帰します」


高梨サンの言葉をさえぎり、PCの電源を素早く落とすと。
ノートPCが入ったバックを手に席を立つ。


「お先に、しつれいします」


「シュウ!」


そんな話を。
ポツリと羽柴さんにこぼしてしまった。

せっかく、完成したウェブサイトをひとつひとつ丁寧に、嬉しそうにチェックしてくれたのに。
クライアントに社内のごたごたをこぼすとか、ありえないことをやらかして。



「・・・そうとう・・・想いが・・・うん。想いが強いんですね。立花さん、最近ちゃんと眠れてますか?」


「・・・寝るには寝てますけど、疲れが全然取れないんですよね」


「・・・そっか。そうですよね・・・別にね、企業なんて欠けてもちゃんと回るんです。自分がいなきゃとか、あの人じゃないとダメとかないんですよ。立花さんの作るサイトはとてもきれいで見やすいのに・・・立花さん。今のお仕事、好きですか?」


「・・・・・・」


言われて。
即答できなかった。


「好きだとは思うんですよ?だって、お願いしたサイト。思い通りですごく見やすくて。立花さんにお願いしてよかったって本当に思いますもん。でも、立花さん自身は・・・どうですか?」


「好き、ですよ?」


ニコリ。笑って。


「なら自信を持って」


切り返された言葉に、笑顔を返してみたけど。
うまく笑えている自信はなかった。
羽柴さんは、それ以上何も言わなかったけど。



***********


「あーあ。つぶれちゃった」


「シュウさんがつぶれるなんて、めずらしいっすね」


「なんか最近、疲れが取れないって言ってたからね。ま、今夜はヒマだし。しばらく放置しとくか」


頭の上で、そんな声が聞こえてくる。
顔を上げようとしたけど、どうにもならなくて。
カウンターにつっぷしたまま、記憶が途絶える。



『わぁあ。にいちゃんすげぇ!オレにも描いてよ!』


『やだよ。うっさいな、あっち行ってろよ』


子供の頃から絵を描くのが大好きで、将来は漫画家になるんだと決めていた頃。
机の周りをうろつく弟がうっとおしかった。


『ちょ、いいじゃん!これオレにちょうだい!』


強引に奪おうとするから。
つかみ合いのケンカになって。
馬乗りになったオレは、仰向けでジタバタする弟のほっぺを、叫んで母さんに告げ口できないよう両手で思い切りぎゅうっと引っ張ったりして。
涙目で抵抗しようと伸ばした弟の両手が腕にぶつかって。


『いってぇな』


更にほっぺを引っ張ったら、とんでもなく不細工な顔で泣きそうになってるから。


『ぷ』


つい可笑しくなって。
結局ゲラゲラ笑い出すと、つられて弟も笑い出して。
少しだけ手を抜いた雑なイラストを、喜んで壁に貼ったりするから。
なんだかんだで兄弟、仲は良かったんだ。


あの日。
居眠り運転の乗用車が、弟を跳ね飛ばしてオレ達家族から連れ去るまでは。



『なっさけねぇ顔してんな、にいちゃん』


『・・・リョウ・・・?』


『で、漫画家にはなったのかよ?』


『・・・知ってて言ってるだろ』


もっとちゃんと描いてやれば良かった。
そうしたら、もっと喜んでくれたかもしれないのに。
最期に、最高にかっこいいイラストを描いて小さな棺に入れたけど。
それきり、描く気になれなくなって。


『漫画がかけなくなったの、オレのせいにされても困るんだからな』


『してねぇよ』


『これ、ちゃんと受け取ったし』


幼い日のオレがありったけをこめた、最高にかっこいいヒーローをひらひらさせて。


『オレのタカラモノ』


『そ?』


『いいだろ』


なれよ、好きな自分に。



なんで今さら出てくるかなぁ。
あの頃のままの、ナマイキな弟。
てかなんで都合よく会話しちゃってんだ、オレ。

親友の店を出て。
フラフラと酔ったまま歩いて帰る。

誰かと話をしたいのに。
オレの話を聞いてくれるヤツなんてどこにもいなくて。

いや。
アイツは何か言いたげだったけど、そこから逃げたのはオレで。


『話くらいなら、いつでも聞くぞ』


店の前で笑った顔に、少しだけ救われて帰ってきたんだ。


サミシイ?
ナンデ、サミシインダロ?


だから。
またなんでここにいるんだよ、とは思ったけど。

エントランスで転がるように眠るルキを見つけて。
思わずそっと抱きかかえて部屋に運んで。
まるまって眠る小さな背中をきゅっと抱きしめる。

ふっと太陽みたいな懐かしい匂いがして。
そのまま朝まで深い眠りに落ちていったんだ。



~~~続く。~~~