今日もよく晴れてます

空気は今日も冷たい


寒さの中でも
桜は1日毎に数輪ずつ
花を開かせています






昨日の夜
なんだかすぐに寝付けなくて

ぼんやり物思いしてたら

ふと東京時代のある人を思い出した




深夜のファミレスでバイトしてた時

ある時から毎日のように来るようになった
男性のお客さん

いつもスーツで来るそのお客さんは
小柄でなんだかちょっと品のある
そしてちょっぴり訳がありそうな
50代くらいのおじさまで


店に入るなりいつも
日本酒の白鷹を注文してからいつもの席に座るので

私は彼を
白鷹おじさんと心の中でよんでいました


その白鷹おじさんは
とにかくよく話しかけてきて

経験談や物の考え方など
饒舌に色んな事を話し

私の考えなんかを聞いてきては
それについてまた彼の考えを語る

「なるほど、君はそう思うわけか。だけどこういう考えもあるぞ。」みたいな



深夜なのでそれほど
お客さんは多くないとはいえ
注文やお会計などで
他のお客さんに呼ばれるし

清掃や閉店にむけた準備など
仕事はたくさんあるのだが

そんなのお構い無しに喋る


ちょっと失礼しますねと
一度離れて用を済ませたら
また続きを話してくるという

楽しく過ごしてくれるのはありがたいが
若干困ったなぁーという感じの人だった



当時役者の勉強や歌なんかやってた私は

そのおじさまとそんな会話もした


そしたらある日
お会計をするときに

いいかい君が演劇や歌を志してるなら
こんな言葉を教えよう

「歌は語るように、台詞は歌うように」だ


と言ってニヤリと笑って
帰って行った



それ以来
いつも帰り際には
まるで合言葉のように

「歌は?」と聞いてくるのと
「語るように」

「台詞は?」
「歌うように」

と掛け合いをするようになった




最初はなんなら迷惑だなぁなんて思ってたんだけど


いつも夜遅くに一人で来て
お酒を飲み

小娘だった私相手に
今までの経験や考えや
いつまでも色んな話をして

いつもの合言葉のやり取りをしたら

満足そうにニヤリと笑い
後ろ姿で手を振り帰っていく



そんな白鷹おじさんが
ちょっと好きになった


まぁ仕事が進まないので
困ってたことには変わりないけど(笑)



そんな中
白鷹おじさんがしばらく来なくなった

どうしたのかなぁ
最近来ないなぁなんて
思っていたんだけど

多分数ヶ月くらい空いて
またフラッと現れた

店に入るなり
「白鷹ね」

わー久しぶりだ!と思ったと同時に

ずいぶんとやつれたようだった
びっくりした

体調でも悪くしていたんだろうか・・・
見るからに以前とは違う雰囲気だったけど
相変わらず私を捕まえて話した

来るといつもと同じように振る舞ってはいたけど
以前より飲まなくなったし
口数も少なくなったし

そして
明らかに来る頻度は少なくなってた


そんな中
私は仕事をやめて北海道に帰ることになった

白鷹おじさんに挨拶したいな
そう思ってたのに

そう思ってからは一度も
ついにやめるまで来なかった

とても残念だった

もう一度
合言葉を言いたかったし
ちゃんとお別れを伝えたかった



家族がいるのかも分からない
今仕事をしてるのかも分からない
小娘の私に一生懸命話をしてくる
名前も知らないそのおじさんは


東京で一人
昼も夜もバイトの貧乏暮らしで
夢を追いかけて
色んな事に迷ってた私には


なんだか私も誰かに必要とされてるのかなって思わせてくれた人だ


少なからず孤独を感じてた私
彼もまたこ


それからずっと
「歌は語るように、台詞は歌うように」
白鷹おじさんのその言葉が
私の胸の中から消えたことはない

その言葉を思い出すと
乗り越えられた場面はいくつもあった




昨日の夜なぜか
すごく思い出した

もう10年も前の
白鷹おじさんの話


彼は今どうしているんだろう
元気でいてくれることを願ってる






歌は語るように
台詞は歌うように


なんだかとても
洒落たおじさんだった





そんなことを
思い出した

ちょっぴり寝付けない夜のはなし。