「琴南さん、オーディション落選って伺い
ましたが？なぜ、撮影に？」
蓮は松島に問いただす。
「いやあ、魚心あれば水心というか…司法
取引というか…とにかく向こう側に弱味が
あってね。他に端役で数人押し込んじゃっ
たよ。」
松島は歯切れ悪く答える。
「あの、俺出演できませんか？」
「はあっ、蓮が辞退して古賀くんだから
なあ。それは無理だよ。いくらなんで
も。」
「ですから、端役で。」
「悪の首領役でカイン・ヒール君だ。カ
イン君は『Tragic Marker』に主演して
いる。日本語がわからないので京子さ
ん、ついてあげて。」
「はいっ！」
呉前の言葉に元気よく返事するキョー
コ。
「カインさん、よろしくお願いします。
京子です。」
「…………。」
古賀をはじめとするキャスト一同は
凍りついた。
「あれ、何だよ。人でも殺しそうだ
よ。」
「時代劇に何もハリウッドスター使わな
くてもいいよな。」
ざわめく中、呉前は蓮(=カイン・ヒー
ル)に英語で話しかける。
「くれぐれも皆さんに正体を知られない
ようにお願いします。」
「了解」
蓮はニヤッと笑ったが、その顔が恐ろ
しくて流石の呉前も青ざめた。
「カインさん、こちらにどうぞ。」
キョーコは嬉々として案内する。
蓮はいきなり、キョーコをカップル
抱きする。
「えーっ、何だよ、あれ。」
「京子さん、大丈夫？」
悲鳴もあがるなか、奏江は冷静に
分析していた。
(…ラブミー1号のキョーコが得体の知れ
ない…いえ、見知らぬ外国人とフレンド
リーに話す？有り得ない。あの身長、
うーん、もしかして敦賀さん？)
奏江はおずおずとカイン・ヒールを
見る。視線が合い、彼はニヤッと笑っ
た。
(…違うっ、怖い。寿命が縮まった気が
する。)
End