キョーコは目が覚めた。
オーディションを終え、社と奏江と
事務所に戻り、蓮に挨拶したところまで
しか覚えていない。
(…ここは一体…)
「医務室だよ、最上さん」
側の椅子に座っていた蓮が答えた。
「敦賀さん/////」
近くに蓮がいたことにキョーコは
驚いた。
「あ…あの、私」
「急に倒れて俺がここに運んできた。
代マネ時代に運んで軽いのは知って
たからね。」
蓮はウインクしてみせた。
(…抱き抱えられたんだ////)
「すみません！！帰国早々ご迷惑
をかけて！」
起きようとするキョーコを蓮は押し
とどめた。
「大丈夫だよ、俺、今日明日休みだし
…。」
「でも、でも他に行くところがあるん
じゃないですか？！」
ムキになるキョーコに蓮は苦笑し
た。
「事務所には顔を出したし、他に行く
ところはないよ？」
「彼女さんのところですっ！！」
声を張り上げたキョーコに蓮は
驚いた。
蓮はさきほどの社との会話を
思い出していた。
「キョーコちゃん、オーディション
危なかったんだ。突然石のようにうごか
なくなって…。琴南さんが叱咤激励した
から事なきを得たけどさ。」
「最上さんが？珍しいですね。」
「俺の勘では古賀くんがキョーコちゃん
を誘惑し、森住仁子が一昨年のドラマ
同様、キョーコちゃんに何か嘘を吹き込
んだな。あのドラマではヒロインが降板
すると騒いで大変だった。」
「そんなことありましたね。」
「彼女さんのところですっ！！」
キョーコは言った。
(… 森住仁子が嘘をついて俺に恋人が
いると話したとして彼女がはたして
激昂するだろうか？
日頃の彼女なら俺に恋人がいると
知ったらその話題に触れないだろう。
好きでない限り。好き？)
蓮は覚悟を決めた。
「彼女って誰？」
思いがけない蓮の返しにキョーコ
は驚いた。
「だから、その…え…と」
キョーコは仁子の名前を言いたく
なかった。
我慢していた涙がこぼれ始めた。
蓮はベッドの端に腰を下ろし、キョー
コの頬を撫でた。
「俺は最上さんに早く会いたくて２日
切り上げてグアムから帰って来たんだ
よ。」
優しい蓮の口調にキョーコは顔を
あげた。
「敦賀さん…」
「一番はじめに『紅葉おめでとう』と
いいたかった。」
「……………」
「愛しくて、恋人になって欲しい最上
さんに…。」
蓮の告白にキョーコは驚いた。
と、すぐに頭を大きく何度も横に振っ
た。
「嘘っ！そんなはずない！敦賀さんが
私を好きなはずないっ、敦賀さんが好き
なのは…つうっ！」
蓮はキスでキョーコの口を塞いだ。
「俺が好きなのは最上さん、君だよ。」
蓮の真剣な眼差しにキョーコは
真実だと確信した。
「敦賀さん！！」
キョーコは蓮の胸に飛び込んだ。
そんなキョーコの髪をなでながら
蓮はキョーコの顔を上げさせた。
「愛しくて堪らないよ。もっともっ
とキスさせて。」
「敦賀さん！」
ひしっと抱き合い、キスを交わす
二人に咳払いが聞こえてきた。
「さっきからノックしてるぞ。」
「ホントでございます。覗きでは
ございません。」
社長の宝田と執事のルトだった。
「最上くんが倒れたと聞いてな。ま、大
丈夫そうだな。蓮よかったな。長年の
片想いが実って。」
「は…はあ」
「最上くんもよかったな。蓮の想い人は
君じゃないか。地獄の閻魔さんと戦わな
くてよかったな。」
「は…はい」
ふたりは宝田の言葉でずっと両想い
だったことに気付き、なぜ自分より
先に宝田にその事を告げたのか相手
を恨めしく思った。
きっと、遊ばれる。チエシャ猫の
ように笑う宝田を見ながらふたりは
がっくりと肩を落とした。
End
2017.10.24加筆修正