---------視線---------
2019年、春。
多英は、お父さんの転勤で千葉に引っ越し、当然高校も別で、中々会えなくなってしまった。
LINEやZenlyで繋がれるけど、やっぱりリアルに会えなくなるのは、寂しかった。
また、ひとりになってしまった。
立ち回りが上手くなって、一緒に過ごす仲間は直ぐにできたけど、周りに自分が上手くハマっているのかが気になり、心を開くことが難しかった。中学の頃より、話していてわからない流行りの言葉が格段に増えた。
自分は、好きなもの、興味のある事柄が、少しみんなと違うんだ。音楽も、映画も。アニメも、皆が夢中になるアイドルも、そんなに魅力的に思えなかった。
「カオリンは誰推し?」
提示されたフォトのなかで、ダディに似た感じの優しげな男子を指さす。
「わ!癒やし系好きなのね、私も好きー!」
正直どうでもいいけど、ぼっちになって目立ちたくないから、調子を合わせる。
「今日さー、少し進展があって、また話聞いてくれる?」
「いいよ。マックに寄る?」
先週から、元カレとヨリを戻したい紀子の相談を受けていた。相談‥答えを求められる訳じゃない。溜まった想いの、受けとめ手が欲しいんだ。
「でねー、それって今フリーなんだよって匂わせかなぁって思って」
匂わせ = はっきりした言葉を使わずに、それとなく相手に悟らせようとすること。
ノリはすごくゆっくり、同じことを繰り返し反芻しながら話してくれるから聴き取り易く、皆が良く使う言い回しも彼女からだと文脈から意味を掴むことが出来た。あぁ、スマホにメモできたらいいのに。ホントなら録音したいくらい。でも相談を録音なんかしたら、嫌がられるよね。
‥ん、熱い。
なんか、視線?
少し離れた席でひとり、コーラを飲みながらこっちをジッと見てる男子がいる。スパイキーに立てた髪に、大きな目。すごい目力。
スカウトマンに追いかけられた経験から、人の視線には敏感になっていた。話を聞きながら、気付かれないようにチラッと見ると、表情が険しくて、ちょっと怖かった。明らかに、話を聞いている。ノリは声が通るから、うるさいかな?個人名バンバン出てるから、その中の誰かの知り合い?制服の感じだと、うちの学校だよね。なんだか居心地がわるくなった。
一生懸命話を聞いてる風だけど、実際はそんなに興味はなくて、言葉やフレーズの採取に集中してる、自分の狡さを咎められた気がした。
そうだよね、こういうの、良くない。
話がもう一巡したところで、
「やっぱり、直接話してみたらいいよ」
と、背中を押して、
「そろそろ行こっか」
自分とノリのカップを片付け、二人でマックを出た。
がんばってね、ノリ。聞いた感じ、元カレには避けられてるみたいだけど、でもお互いに好きだったなら、実際に会ったら何かが変わるかもしれない。
会えるって、素敵なことだよ。
大事な友達に会えなくなった春、駅に向かいながら、胸の中で呟いた。