---------竹下通り---------
ある日、多英に付き合って原宿に買い物に行った。
世界的に有名なファッションストリート。でも実際に行ってみたら、洋服だけじゃなく不思議雑貨とかクレープとか、10代でも安く買えるものがいっぱいあって、買い物よりもブラブラ歩くのにちょうどいい、賑やかな散歩道。段々人が増えて来て、そろそろ他へ移動しようか考えていた時だった。
「あっ、また来た」
「何?」
「あの人、絶対そうだよ」
多英が指す方向から、うちのダディぐらいの年代の男性が、にこやかにこっちに向かって歩いてくる。
「お店入ろう」
すぐ目の前にあった古着屋に飛び込み、店の中の階段を駆け上がった。
「待ってー、カオリン」
息を切らして多英が上ってきた。
「そんなに逃げなくても。違うかもしれないし」
「でも、もしそうだったらイヤじゃん」
「いいなぁ、カオリン。私なんか何十回も来てるけど、スカウトなんて一回もないよ」
「多分、多英がメイクしてくれたから」
駅のトイレでふざけて試したメイキャップを、すごく後悔していた。私の顔は、なにか色が入ると一気に実年齢を超えてしまうんだ。
「最初の人なんか、地下鉄から地上に出て30秒も経ってなかったよね。ちょっとキミ、待ってーって」
「補導されるのかと思った」
「カオリン逃げちゃうから私が名刺もらった(笑)」
「だって、話が長いんだもん」
せっかく友達と遊びに来てるのに、よくわかんない大人に掴まるなんて時間の無駄。
「カオリン逃げちゃったあと、トシ聞かれて中学生ですって言ったらびっくりしてたよ」
「やっぱり。私、老け顔だから」
「大人っぽいんだよ。いいなぁ」
「よくないよ。中身が追いつかない」
「そういうギャップも、モテ要素しかないし!」
いつも励ましてくれる多英。きっと中身は私より大人。私は多英みたいに、気になる人がいても自分から声をかけたりできない。
「でも、すごいなぁ。2時間ちょっとで3回もスカウトされるってすごくない?」
「本物のスカウトかどうかわからない。何か買わせようとしてるのかも」
「でも、この名刺の会社、ググったらちゃんと出てきたよ?」
「名刺だって、本物かどうか怪しいよ」
とにかく、色んな誘惑の多い街。
「お昼はシモキタで食べない?好きなお好み焼き屋さんがあるんだ」
「イイね」
明治神宮前から千代田線に乗って、深く降りて小田急線に乗ったらホッとした。オダキューはホーム。私の大切な人たちが使う大好きなトレイン。