---------ジギャク下手---------
「じゃあ、リップの色、天然なんだね。きれい」
「ありがとう」
「なんでそんな後ろにいるの?鏡見ようよ〜」
「いい。もう塗ったし」
女の子の友達と鏡の前で並ぶのが苦手。
髪とか目とか肌とか最大のコンプレックスの身長とか、日本の女の子はとにかく容姿を誉めてくれる。転校生を勇気づけるため?誉めてリラックスさせるため?もしそれが意図なら、ちょっと方向が違っている。なんと返すのが正解かわからなくて、とりあえずお礼を言うけど、それってなんだか偉そうだし。髪だって、本当の色は明るすぎるから、日本仕様に染めている。
同じように容姿を誉められても、うまくmodesty(謙遜)や「ジギャク」self-tortureで軽快に返す子もいて見習いたいけど、気を遣う時に限って彼女たちみたいに感じの良い上手い言い方がとっさに出てこない。ニホンゴ、難しい。
お願い、そっとしておいて。誉めたりなんかしなくていいよ。身長だってこれ以上伸びないで欲しい。小さくてかわいい日本の女の子たちの中で、悪目立ちしたくない。
「次、長谷部さん読んでくれる?」
またコレか。なぜか、英語の授業で音読させられる頻度が高い。
読んだあと、
「やっぱり発音きれいね。みんなも参考にしてね」
先生は誉めてくれるけど、いいのかな。私のはハワイ英語だから相当訛ってるんだけど。
「訛ってるんで、あんまり参考にしないでください」
みんな笑ってくれたけど、ホントなんだって。
アクセントとか、そもそも単語だって結構ちがう。
わたしの三つ上のbruddah(ブラダ/兄)は、中学こそ進級ギリギリの不登校だったけど、ここ神奈川に来てからはなんだか毎日楽しそう。
バンドに入って曲を作ったり、片瀬江ノ島でサーフィンも再開して、一時期げっそり痩せたのが、みるみる元気になってきた。
「家族は、一緒にいるべきだ」
ダディのポリシーのもと、彼の転勤の度にみんなでついてきたけど、それはきっとダディがママと一緒にいたかったせい。ネットで見つけた言葉、ニコイチ(二人で一つ)がハマる二人。
愛に溺れると書いて、溺愛。
ダディのママへの接し方は、私たちへの温かなそれとはちょっと違って、いつも熱くって飛びきり丁寧で優しくて、継続的。あぁ、ケイゾクじゃ、ニホンゴ堅いかな。変。「とっても大好き」が、ずっとずっと続いてるって言いたいんだけど。
日本に来て覚えた言葉だけど、「推し」と結婚したようなものなのかな。
「渚、かわいい」
「今日もキレイだよ」
「その服似合う」
「何時に戻る?迎えに行こうか」
ダディは常にママに関心がある。