‐‐‐‐‐‐‐レモンカステラ‐‐‐‐‐‐‐
オーマイガー!いた。
部室のドアを開けると、窓を背にしたいつものソファに、カオリンが座っていた。
バカ、俺、会いたくて早く来たんじゃんか。
早くも動揺。胸の鼓動がハンパない。
「オツカレ」
スマホから顔を上げ、笑いかけてくれた。頬にかかる、栗色の髪が綺麗だ。
「オツカレさん。早いね」
こんなオッサンくさい返ししか出来ない自分を呪う。ただの挨拶でこんなに気持ちが揺さぶられるのは、惑星の影響か。
動揺を抑えて早速切り出す。
「ライブの時、ピックありがとう。助けてくれなかったら、ホントにヤバかった」
「いいのに。困ったときはお互いさま。いつも助けてもらってるし」
優しい声の響き。俺の動揺もきまり悪さも全部包み込むような。
「借りたとき、ピック真っ新だったと思うんだけど、俺が使ってちょっと傷んじまって」
「いいよ、あげるよ?要らなかったら捨ててもいいし」
「捨てない!絶対。あっ、その‥じゃあ有難く、貰う」
キョドった俺を見て、クスクス笑う。
さて、本題だ。
「お礼に、渡したいモンがあって。甘いもの、食べる?」
「大好き。えっ、どうしたの?それ」
視線が、俺の持ってる包みに注がれた。
「か、感謝の気持ちを込めて‥作った」
自分から手作りってバラしちまった。
あわわ。
「見せて」
立ち上がって、近づいてきた。
「そんな、大したもんじゃ‥」
「今、見たい。一緒に食べよう?」
アヤたちが来たら取られちゃうから‥と俺の腕を取って廊下に出て、中庭のベンチに向かった。一緒に歩く妄想を、これまで何度したかわからない。それがいま現実になってることに、頭が追いつかなかった。
「そこがいい。座ろっか」
時々平野や山口とカオリンが話し込んでいた端っこのベンチに座った。
「見せて見せて」
「手作りとか、引かない?」
「全然。ただピック貸しただけなのに、こんなにしてくれるの、なんかごめんね」
それだけじゃないんだー、思いながら、包みをそっと開ける。
「わ‥あ、きれい。すごいね、こんなの作れるの。カステラ?」
「そう、レモンカステラ」
ガクッ!でもカステラなら、手掴みでもイケる。
「食べてみる?」
「うん」
切り分けててよかった。ナプキンに包んで、6切れの中からコンディションのいいのをひとつ渡す。
「ショーは?」
「俺は、いっぱい試食したから、いいや」
「あはは、ありがとう」
俺が作ったケーキ、いや、カステラを食べる彼女を見守り、じんわりシアワセが込み上げた。