‐‐‐‐‐‐‐渡す!‐‐‐‐‐‐‐

 

「そうだな、関係ねーや。とりあえずは感謝の気持ちを‥」

 

「まさか翔が作ったなんて思わないだろ」

 

そりゃそーだ。ピアノ以上のギャップ。

悩み無用。

 

「この、型から出したホールのまんまあげんのか?」

 

「まさか!いきなりそんな量貰ったらドン引きだろ」

 

「それはそれで面白いな」

 

「切り分けてコンディションのいいところを‥」

 

「やっぱ見た目カステラじゃん」

 

「うるせーなーもー!」

 

おちょくられてイラッとしたが、楽しげに笑う兄貴を見て俺もなんだか楽しくなってきた。

 

渡そう俺の、ウィークエンド・シトロン。

 

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今日こそ。今日こそ渡す。

 

昨日と一昨日、部活で会えなかったから、やっぱ休み時間にアポ取るのが一番確実だ。作りたてを渡したくて、既に槙田家のキッチンでは、レモンケーキの大渋滞が起きていた。

 

これ以上タイミング逃すと、俺の家メシは全部レモンケーキになっちまう。祈るような気持ちで、カオリンの教室に向かった。

 

入り口近くで、前髪を直す平野を見つけた。カッキーの言う通り、会うたび髪型が違う。チャンスだ!呼んで来てくれるかもしれない。

 

「よう!」

 

目が合うと、「あー」と声をあげ、何か知らんがクスクス笑い出した。??何だよ?

 

「カオリンなら、3組だよ」

 

「なっ!?」

しまった、SASAMIで1人だけクラス違うんだった!動揺してカッと赤くなる、恨めしいこの体質。

 

「なんでわかった?ライブのとき、ギターのピック失くして借りたから、夏休み前に返しに」

 

部活には来ないけど、学校には来てるはず。

そうだ、俺のカオリン推しは、きっとSASAMI全員にバレてんだよな。恐らく本人にも。

 

「カオリン、今日は行くって言ってたよ」

 

「マジ?じゃあ、そんときでいいや」

 

今日は会える!安堵と期待で、胸にパッと明かりが灯った。

 

「渡しておこうか?」

 

「いい!自分で」

 

手を延ばしてきたわけでもないのに、レモンケーキを守ろうと思わず背中に隠した。

 

「んじゃ、部活で」

 

言い残してその場を素早く去る。

振り返らないが、なんか絶対笑われてる感。

 

3組の前を通ったが、中を覗き込む勇気はなかった。カオリンのことになると、とことんへタレないつもの俺。彼女が出来て、少しずつ変わってはいるんだろうか。

 

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放課後。

来る時はいつも早めのカオリンに倣って、ひとり先に部活に向かった。会えるのが楽しみで、いつも足早に通り過ぎた渡り廊下。なんだかいつもと違って見えるのは、コレは俺にとっての非日常なのか。

 

変だな、今からコクるわけでもないのに。

俺‥緊張してる。