‐‐‐‐‐‐‐レモン‐‐‐‐‐‐‐
土曜日の昼下がり、カオリンのことを考えていた。
もう思いは断ち切ったから告白なんてしないけど、ピンチを救ってくれたピックは返さねーとな。あげる、って言ってくれたけど、持ってるとなんとなく青木に悪い。
返そう。
ハダカで?
それはマズいよな、せめて包んで感謝の気持ちを‥
やりすぎ?重たいか。キモいかな。
でも、伝えたい、気持ち。
俺のスクールライフ、カオリンがいることですごくしあわせだった。支えだった。
何かプレゼント、負担にならないもんで何かないかな。ギター関連小物🎸?好みもあるもんな。残らないもの、消えもん(食べ物)がいいか。何を?好みなんて全然わからない。ずっと推してたわりに、リサーチ不足。
小さなレモン色のピックを見つめる🍋。
そうだ、レモン。
台所に常備してあるタブレットでレモンの菓子を探す。クックパッドでシンプルで美味そうなケーキを見つけた。幸い材料は全部間に合いそうだ。青木との横浜デート以来、調理が面白くて、時々キッチンに入るようになっていた。
「母さん、このレモン使っていい?」
「いいよ。今晩の唐揚げ用だけど。何なに?」
興味津々で参入してきそうな姿に、ストップをかけた。
「あー、いい、いい。もしなんか困ったら、声かけるから」
最初から最後の1工程まで、全部ひとりでやりたい。これは俺の、訣別の儀式。
なーんてな。バカ、付き合ってたワケでもねーのに。向こうは俺のことなんか、何とも思っちゃいないのに。
そう思った瞬間、少し胸が傷むのは、もう恋じゃない。きっと古傷の類い。
バター、砂糖、とき卵、レモンの皮のすり下ろし、レモン汁の順に混ぜていく。写真の通りのテクスチャーにするには、それぞれかなり根気良く混ぜないといけない。
結構力要るやん、コレ。重労働だ。
だからパティシエって男が多いのか。
無心にかき混ぜていくうちに、どんどんカタチが変わって、目指す所に徐々に近づいていく。
いいかもなぁ、モノ作り。ただ対象の事だけを考えて、ひたすらに進む。俺の性に合ってる。
イイ感じで作業を進めてたら、母が静かに近付いて様子を見に来た。
「なんだよ」
「ちゃんとふるってね、薄力粉」
「ん?ふるうって何?」
「ダマにならないように」
目の細かいザルを持ってきて、俺がボウルに入れようとしていた粉を、漉してくれた。
「へ‥え」
こうやって固まりを取除くのか。
よく作る人には当たり前の手順は、簡単レシピには載ってない。
「母さん、ちゃんと出来てるか、みて」
ここまでの工程で出来た混ぜ物をチェックしてもらった。
「いいんじゃない?翔ちゃんは仕事が丁寧ね」
「粉、混ぜたら、焼く前に見てくれる?」
「了解」
色々聞きたそうだが、聞かないでいてくれる。
段々俺のトリセツわかってきたのかな。
🍋⭐︎🍋⭐︎🍋