‐‐‐‐‐‐‐秘訣‐‐‐‐‐‐‐
歯を磨こうと階下に降りると、ちょうど徹兄貴が帰ってきた。
「ただいま」
「お帰り、午前様」
「ハハッ。ライブ、どうだった?」
「ん。けっこう上手くいった」
「優勝?」
「まだわかんねー。多分無理め」
「プロみたいなやついるんだっけ」
「そう、レベチ」
「同じクラスの子だろ?もしかしたら組んでたかもな」
「ウン。でも目の前でかっさらわれた」
「ぼーっと生きてると、どんどん取られるぞ。メンバーも彼女も」
「💡チィ兄ちゃん俺、そーいや彼女できたわ」
「どっち。パンケーキと、何だっけ?」
「カヌレ。今日、パンケーキに告った」
「おー、いいじゃん。グダグダ悩んでたのに、急展開。なんで?」
「話すとながい」
「じゃあいいや。上手くやれよ」
俺より更にせっかちで待てない徹兄ぃでも、彼女のためだったら並ぶんだろうか。
「ちょ、聞いていい?」
「なんでも」
「長く付き合う、秘訣」
「知らんわ。オレが聞きたい」
「今カノ、長いじゃん。もうすぐ二年?」
「長いか?途中何回か切れてるし」
オレの不徳の致すところ‥ブツブツ言いながら上着を脱ぐ背中に食い下がった。
「何回切れても戻るのはなんで」
「はぁ?しつこいぞ。それはもう、好きだから」
「お互い?」
「まぁな。今の彼女は、他の子にないポイントがある」
「ポイント?」
「一緒に過ごす上で、オレが譲れないポイント」
「どんな?」
「ギャップがないこと」
「へっ?」
ギャップって、モテ要素のひとつじゃないっけ。
「感情の振れ幅の、ギャップ」
ああ、なんとなくわかる。
徹兄貴は、ヒステリックな女子が苦手。
「この子、こういうキレ方するんだー、とか、そういうの?」
「そう。付き合い始めると態度やイメージが変わる子はなんかダメ」
「悪い方に?」
「ああ、そういうの何か多いんだ、オレ」
「それは、イケメンあるあるじゃねーかな」
「なんだよソレ」
「女子って、イケメンにはとりあえずいい顔するじゃん」
気に入られたくて発する優しさは、ホンモノじゃない。
「いざ付き合うと色々「我」が出てくるから、ギャップがデカいんだよ、きっと」
そう考えるとイケメンも大変だな。イケメンだって俺らと同じ、ただの男なのに。
「なるほど‥、お前案外読みが深いな」
「へへー」
^_^ 褒められた!