‐‐‐‐‐‐‐女神‐‐‐‐‐‐‐

肝心なときにやらかすー。
仲間と練習を重ねてきて、やっとライブって時に大事なピックをケースごと全部なくすとかあり得ない。やっぱ俺って欠陥品、ポンコツ!力が抜けて、しゃがみこみたい最悪の気分。

思考停止して固まった俺の前方、額にかかった栗色の髪をかきあげながらウィルキンソンレモンを左手にぶらさげて、まだ焔明るい窓の夕暮れの陽射しの中、カオリンが廊下を歩いてきた。

瞬間、スローモーション。
これは、夢?


「どうしたの?顔色わるいよ」

「ピック落としたっぽい」

「あるよ、使って」

ポケットからレモンイエローのティアドロップ型のを、1枚渡してくれた。

「いいよ、俺らパンクだから傷んじまう」

「もう時間ないよ。私、予備あるし、何なら割ってもいいから。頑張れ!」

うわっ、笑顔が眩しい。

「いつも持ち歩いてる?」

「ううん、今日だけ。ちゃんと弾けますようにってゲン担ぎ」

俺と同じ。ピックは弦と俺の接点。体の一部のように使いこなしたくて昨日から持ち歩いていたんだ。なんかジワッと感動した。

「ありがとう!感謝。必ず返す」

「いいよー、あげる」

と、微笑んでくれた。
優しい。でもそれは、俺だからじゃなくて、困った奴をほっとけない、ホントに普通にいい子なんだ。

「爆音だけど、見て」

「もちろん」

サムズアップして、楽屋代わりの小部屋に入る。

「ショー、遅っせえぞ」

「わるい」

絶対に、なくさない。
キズつけちまうかもだけど。

カオリン、ありがとう。





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