‐‐‐‐‐‐‐青木ママ‐‐‐‐‐‐‐

その時、玉砂利を踏みしめる音がして、振り向くと、「ま」の形に口を開けた青木ママが、汗を拭きながら立ち尽くし、

「まぁ、そういうこと?」

目を真ん丸に見開き、歩み寄ってきた。

「田中先生に槙田くんが向かってるって聞いて、めっちゃ早いじゃない、君!ありがとう」

「心配で」

「おかーさん!」

「ゴメン、もしかしてまたマメの脱走?なんで家に戻ったの?」

「忘れ物!もー、ちゃんと閉めてよ!大変だったんだから。マメ、車に轢かれそうだったんだから」

「本当にごめんね、気をつける」

青木の剣幕に悄気た青木ママが、「でも、良かったじゃない」と、切り返す。

「何が」

「片想い卒業!フーフー」

やっぱ聞かれてた。

「やめて!ママが来て台無し」

苦笑した青木と、顔を見合わせて笑い合った。

小声で「後で」と囁くと頷いてくれた。

「二人とも汗だくじゃないの。サッとシャワー浴びたら?車で送るから」

嬉しそうに学校に電話する青木ママを背に、マメを抱いた青木と、青木家のドアを開けた。

君の扉へ続く、長く曲がりくねった道。

今朝聴いたビートルズが、頭をよぎった。

さっきコクったよな、俺。生まれて初めて。

思えば、青木にコクられてからアクシデント続きだ。本多の仲間に襲われたり、しゅうくんとマメと一緒のデート、いきなりピアノ弾かされたり…。

でも、佐久間と仲良くなれたし、青木の家族も好きだし、池田さんと出逢えたり、全部結果オーライ。

何より、安心して自分が出せる、唯一人の相手。

絶対に失いたくなかった。
自分もどうにかなりそうだった。
自分の動揺の凄さに、驚いた。

俺、この子が好きだ。
人の良さ、優しさ、少し抜けてるとこも含めて、何をおいても、守りたい。

コクってくれたから、きっと半分自分のモノみたいに思っていたんだ。いつも近くにいて当たり前って、とんだ勘違い。

俺を好きでいてくれるのも、奇蹟なんだ。
奇蹟だって、期間限定かもしれない。
もっと早く、気づけばよかった。





にほんブログ村 小説ブログ 恋愛小説(ラブコメ)へ
にほんブログ村