‐‐‐‐‐‐‐帰り道⑤‐‐‐‐‐‐‐

「そんなにお腹空いてないって言ってなかったっけ?」

生クリームを載せた大ぶりのデニッシュと、林檎のパイを買って満足げな青木をからかうと、

「甘いものは別っしょ」
と微笑む。

ピザバンをかじりながら、「正直俺もまだイケる」と呟くと、

「足りる?」

「大丈夫。食べきれなかったら、くれ」

「ダメー!」

トレーごと本気で遠ざけるので、可笑しくなった。

「取んないよ(笑)」

まだ警戒してる目だ。

「青木って、食べ物にすごく真剣だな」

「へん?友達にも言われたことある。ひいお祖母ちゃんが戦争中苦労した話をしてくれたから、食べ物大事、なんか必死になっちゃう」

「どんな話?」

「ご飯が、おかゆになって、すいとんになって、お芋になって…どんどん食べるものがなくなって」

「大変だったんだ」

「自分がひいお祖母ちゃんだったら、家族のためにそんなにちゃんと出来るかなって、不安になった」

「ひいお祖母ちゃん、いくつ?」

「今年で99歳」

「わぉ、長生きの家系?」

「どうだろう?ひいお祖父ちゃんは38歳で死んじゃったから、ひいお祖父ちゃんの分までがんばってるのかも」

「そっか」

「つまんないね、こんな話」
照れたように笑った。

「そんなことない。青木のこと、もっと教えてくれよ」

「もっと?」

「家族思いで、ひいお祖母ちゃん子で、食い意地張ってて」

「もう!」
背中に一発。

「痛ぇよ、加減しろ、バスケ部」

自分だったら…、置き換えて考えられるって、やっぱ優しいんだな、この子。
だって、そんな時代に生まれなくてラッキー!って軽く流すヤツの方が多くないか。

改札から流れてくる人々を窓から見下ろしながら、二人で食べるHOKUOのパンは、美味しかった。

 





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