‐‐‐‐‐‐‐街角ピアノ⑧‐‐‐‐‐‐‐

反響する拍手と口笛の音で、ハッと我に返った。

「??」

振り向くと、沢山の人の笑顔。
終わった。そこそこ上手く演れたのかな。

立ち上がって池田さんに向き合うと、笑ってまた握手してくれた。今度は両手。よかった。

また手拍子が始まりかけたが、池田さんが手を合わせ、御免なさいのポーズで制してくれた。

「マキタくん、いいよー」

「池田さんこそ。プロみたいだ」

「一緒にやって、こんなゾクゾクしたの初めてだよ」

「ヒヤヒヤの間違いでは」

「オイ、自虐グセ(笑)。進路まだ決まってなかったらうちの大学来ない?」

「まだ全然決めてないっス。1年だし、高校も入ったばっかりで」

「えっ!高1?そっかー、麻生高校だっけ、すごくセンスいいよ」

こんな上手い人に褒められるのは光栄。

「ありがとうございます。池田さんのおかげです」

帰り始めた人々の中に佇む青木の方を見た。

(こっち来いよ)
手招きして呼ぶが、なかなか来ない。

(いやいやいや、いいよいいよ、大事な話あるんじゃない?待ってるよ!)

最後の「待ち」のポーズが、おあずけを食らった小犬の様に手を前でグーで揃えて、その仕草が可笑しくて思わず吹いてしまった。

「かわいいね、彼女。すっかり邪魔して悪かった」

「いえ…」

クスクス笑う池田さんに釣られて俺も頬笑み返した。まだ彼女では、ないんだよな。

「良かったら連絡先教えてくれる?今度ジャズ研遊びに来て」

「ハイ、ぜひ」

ジャズの、畑ん中に入ってみたい。上手い人と、もっと絡んでみたい。

どんな景色が見えるんだろうか。将来に繋がる何かが、掴めるだろうか。