‐‐‐‐‐‐‐心の容れ物‐‐‐‐‐‐‐

「病院終わったらカラオケ行かないか?」

今日はハマーとカッキーが来れないから、ヒデと語り合いたい。

「いいよ、もう行っちまおうか」

吉田部長に話して、二人で部室を抜け出した。今日は、なんとなく、軽音に居たくなかった。

駅ビル5Fの新百合ヶ丘ステーションクリニックで診て貰い、腫れは有るが骨には異常が無いことがわかった。

怪我の事を家族に言わなかったので、ガッチリ巻かれた脚を見たら怒られそうだけど、ふとした拍子にどこかに触れて痛さに飛び上がることもなくなり、やっぱり来て良かった。

「そんな怪我して病院行かねーなんて、翔おかしいよ。痛みに鈍感?」

「痛いっちゃ痛いけど、自分の中で峠は越えたから、放っときゃ治るかと」

「我慢強いんだな」

「いや、実際鈍いのかも」

我慢強すぎて熱中症で死にかけたり、自分の体に対して無頓着なところがあるのは自覚してる。

ダメだ。こんな生き方してたら、早死にしちまうな。

「ヒデ、ついてきてくれてありがとな」

何かあったら、家族や仲間に迷惑が掛かる。そんなことに今更気づかされるなんて、俺ってやっぱガキだ。

これからは俺、自分が入ってるこの容れ物(体)を、周りの皆を大切にするのと同じくらい、もう少し大切に扱うことに決めた。

だって、体がなくなったら、触れられない、話しかけることも出来ない、好きな子に。


でも、思いを告げるまでもなく、失われちまったかもしれない、俺らの想い。



なんで人は人を好きになるんだろう。

求めるんだろう。

求めて得られないことが、こんなにも、悲しいんだろう。