‐‐‐‐‐‐‐恋心‐‐‐‐‐‐‐

真っ直ぐ対峙するのが初めてで、きれいな二重の目を直視出来ず、サイドに流した栗色の前髪の辺りを見ながら話した。

「デートって、マジ?」

「…多分。イオンシネマ新百合ヶ丘で、二人が手を繋いでシアターに入るとこ見ちゃって。薬局に言わないでね」

「!」

手繋ぎってことは、決定か。
既に二人で出掛けるような関係?

「佐久間は?一緒じゃなかった?」

「えっ?いなかった…よ」

その瞬間、カオリンの頬にサッと赤みがさし、その種の変化に敏感になってる俺は、ピンときた。

まさか。佐久間に恋?
マジで。

好きになると、その相手の名前に敏感になるんだ。
不意に誰かが、その名を発しようものなら、ギョッとして、動揺が隠せない。

俺なんか、小1のとき、ある女の子が好きすぎて、ピアノレッスンの自己紹介で、その子の名前で名乗っちまったくらい。

「ハイ!田辺あかりです」

先生に大爆笑されて、一発ギャグと認定してもらったが、死ぬほど恥ずかしかった。

それぐらい、好きになると、その相手の存在が、名前が、自分の意識の大部分を占領する。

佐久間、か。

勝ち目ないじゃん、俺。

「今日、平野はどうした?」

「二人を見たショックで、来られない。ちょっと重症かも…」

そう言えば最近、椎名と時々朝登校してるのを見かけた。罪だよな…人たらし。薬局の二人も、よく椎名にまとわりついてたから、怒ってんのか。

「ありがとう」

「ううん」

初めてサシで話せた嬉しさと、まだ本人も気づいていないかもしれない、カオリンの恋を知った切なさで、頭の中が、グチャグチャだ。