顔を上げると、サイトーの、少しはにかんだ笑顔。優しい目を見てたら、胸がいっぱいになった。
「泣くなよ」
「泣いてない」
「オレがいるじゃん」
「頼っていいの?」
「仲間だろ」
そうだよね。
ふっと、思わず微笑んだら、サイトーの顔が近づいてきた。
軽く、唇に触れるか触れないかの、優しいキス。乾いた唇の感触が心地よかった。
ウチら、仲間なのに?
サイトーが急に男の子になった。
好き。
もう一度、ほしい。
「もっかい」とリクエストしてしまった。
「ん?」と、目を覗きこんできたサイトーは、再びゆっくり唇を重ねてきた。
はむっという感じで唇を挟み、もう少しだけ深めに、背中に廻した手にも微かに力がこもって、本気のキス。小さく息が漏れて、身体がぴたっと密着していき、頭の芯がじぃんと痺れる感じ。
あぁ、このままサイトーに食べられちゃいたい…と身体を完全に預けたところで…、ストップ。
ウチも、ハッと我に返った。
何やってるんだろう。
でも、ここで止められるサイトーって、すごくない?
静かに、身体を離して、
「ゴメン」
「ううん」
「帰るわ」
「うん」
急に恥ずかしくなって、頬が熱い。
玄関に向かう背中を見ながら、止まってくれたサイトーに、感謝。止めてくれなかったら、止まらなかった。だって、全然イヤじゃなかった。
靴を履いて振り返ったサイトーと目が合って、また、ふふっとお互い微笑んだ。共犯者的な、不思議な感覚。
「またね」
「ああ」
「ありがとう」
「そっちこそ」
去っていくサイトーを、玄関で見送った。
「早く中入れよ」
「うん」
「鍵!」
「わかってるってば」
やっちゃった。
「おかわり」なんかして、呆れられたかな、軽いって。
でもサイトーも、女子と付き合ったことないのに、上手だったな。ウチが経験したなかで、ガツガツしていない、温かで、包み込まれるような、一番優しいキス。
信頼感。
自分を安心して任せられる、全部委ねたくなる、そんな気持ちに、初めてなった。
女子の場合、これがSweet Emotion?
ヤバいよ、サイトー。何してくれちゃってんの。
好きになっちゃうじゃん。
てか、もう好きじゃん。