----------------花火----------------
夕刻、日没直前のパープルの空の下、百合が丘駅迄の道を、ひとり歩いた。
歩くと悩みが、軽くなる。
前にシナユーが言ってたっけな。
家に居ると色々考えちまうから、こうやって外に出るきっかけをくれた、平野に感謝。
家に着いて、ブザーを押して直ぐ、平野が出てきた。
紺地に淡いピンク色の花を散らした、浴衣!
そっか、花火だもんな。
いつもとは違うやり方で髪を結った平野は、とてつもなく、かわいかった。
「…」
「変?」
「いや、めっちゃ似合う」
「よぉし!」
無邪気にガッツポーズをキメる姿を見ながら、そもそもオレは、なんでまたこんなきれいな子と二人で花火に行くことになったんだ?と、呆然と考えていた。
デートやん、コレ。端から見たら。ま、いっか。
「行くか」
「いこいこ」
浴衣に合わせて草履を履いた平野のペースでゆっくり歩く。段々日が落ちて、暗くなりかけた頃、例の公園に差し掛かった所で、
「チッ、一緒かよ」
くぐもった声が聞こえた。
マシュマロ男登場。
制服の時より、若干ガラ悪く見える。
ビビリだから?似たような雰囲気の仲間を二人連れて来ている。
やっぱり迎えに来て正解。
男三人相手に、履きなれない草履じゃ、逃げられない。平野に耳打ちする。
「そのまま、真っ直ぐ駅まで行って、交番のお巡りさん呼んできて」
「わかった」
察した平野は、公園の方を見ずに、小走りで駅の方面に向かった。
兄貴に教わった通り、複数相手の場合はとにかく背後に回られないように俊敏に動くこと。
平野を追いかけようと飛び出してきた奴を掴まえ、腹に一撃を喰らったが、堪えて腕を取り、関節をキメて、もう一人向かってきた奴を目掛けて突き飛ばした。
足が縺れて倒れ込む二人の傍で、マシュマロ野郎が怯えた表情で、立ち尽くしていた。
「わかった!帰るよ。悪かった」
オレのでまかせのファイティング・ポーズが効いたか?