久しぶりに

車いすを押した


あの時は

父の背中を見ながら

道端に無造作に置かれた

放置自転車を動かしながら

病院まで押した

上から目線で

通る人は車いすの父を見た

私は心が刺々しくなりながら

その場を早く立ち去ろうと

手荒に車いすを押した


今日、母の背中を見ながら

わたしはゆっくりと

車いすを押した

少しの段差もガクンと振動がくる

母にガクンとなるよと声をかけながら

わたしはゆっくりと

車いすを押した

奇異な

邪魔者扱いな視線は

もはやなかった

車いすの為に道をあけてくれた


暖かな秋の陽射しに

母は穏やかに

わたしを見上げた


大正15年3月19日生まれ

86歳の彼女は

若々しい茶系の白髪染めをしていた

柔らかな髪の色が

太陽に照らされて

なお明るくなった


髪の色を誉めたら

母は嬉しそうに笑った

わたしが

父を車いすで押したより

母は軽かった


帰り道

母をおいてけぼりにしたようで

胸が痛んだ


わたしは

あの女性の子供なんだと

改めて思った


母と子供は

切れない何かがある













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